
熱海市立図書館(熱海市上宿町)で9月21日、開館110周年を記念した連続講演会の第1回が開かれた。
講師に作家の中尾ちゑこさんを迎え、著書「崩壊 国際流通グループヤオハン もう一つの姿」を題材に、熱海発祥の青果店から世界進出を果たした「ヤオハン」の歴史を振り返った。
同館は1915(大正4)年に開館。記念事業の一環として、9月から12月まで月1回のペースで講演会を企画している。初回となったこの日は市内外から60人ほどが来場し、耳を傾けた。
同書は、米ニューヨーク、ブラジル、中国など「ヤオハン」が進出した国を舞台にした短編小説8編から成る。登場人物は、海外進出を機に人生の転機を迎える人々。モデルが実在するケースもあれば、同社の歴史を背景に中尾さんが創作した人物もいるという。
講演では、中尾さんが執筆に至った経緯を紹介。きっかけは「ヤオハン」創業家の夫人との出会いだったといい、「当時の体験談を聞くうちに好奇心を刺激され、取材を始めた」と振り返った。作品作りの過程では、社員や元役員へのインタビュー、社内報や資料の読み込みを通じて物語を構築していったことを明かした。
熱海や伊豆半島を舞台にした著作にも触れ、「つるし雛(びな)の港」「熱海残照」「グレビレア・ロブスタ」などの執筆背景を紹介。講演終了後には書籍の販売も行い、来場者が直接中尾さんに感想を伝える姿も見られた。同館では中尾さんの著作の貸し出しも行っている。
講演会の初回を終え、館長の小林啓一さんは「これからも図書館を学びの場として活用してもらえたら」と話す。
次回の記念講演会「熱海の鉄道史」は10月19日に開く。開催時間は14時~15時30分。参加無料。定員は40人。