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【熱海・スナックと私 vol.8】 「宇田水産」社長・宇田勝さん(中編:ミスティ)

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 特集「熱海・スナックと私」では、市内の経営者にお薦めのスナックを紹介してもらいながら、これまでの人生やこれからの経営ビジョンなどを伺います。聞き手は、熱海経済新聞副編集長でボイストレーナー「たーなー先生」としても活動する田中直人です。

 これまで、江戸時代から160年以上続く老舗干物店「釜鶴」5代目の二見一輝瑠(ひかる)さん、1806年創業の老舗温泉宿「古屋旅館」17代目の内田宗一郎さんに話を伺いました。今回は、「宇田水産」社長の宇田勝さんにインタビューしました。宇田水産の社長を務めるほか、熱海魚市場の代表や熱海第一ビルの役員を務める宇田さん。3回に分けて、宇田さんのこれまでの取り組みや思いについてお伝えします。

これまでの記事

特集【熱海・スナックと私 vol.1~7】

――2軒目に選んだスナック「ミスティ」について、魅力などを教えてください。

宇田 天井が高く、スナックなのに圧迫感がなくてゆっくりできる雰囲気が気に入っています。魚屋仲間のお気に入りスナックの一つでもあります。同世代のママに愚痴を言っても的確な意見を教えてもらえ、息抜きができる場所です。時には怒られますが、それでも来てしまう店ですね。

――前回からの続きで、宇田さんの現在の活動を教えてください。

宇田 宅配便で東京の居酒屋に魚を送ったり、ネットで未活用魚の販売をしたりと、新しい企画にも取り組んでいますが、熱海の宿泊施設や飲食店に、地元の魚をもっと使ってもらえるような動きを続けています。

一部の旅館では地魚を中心に取り扱っていますが、大きなホテルや旅館では、限られた地魚をメニューに入れづらいのは分かります。

飲食店でも、市外から進出してくる店はインスタ映え中心で、地元の魚を使っていないところも多い。一方で地元・熱海の河越社長が経営していることもあり、「おさかな食堂」の系列は地魚を多く使ってくれていてとてもうれしいですね。もちろん他の飲食店も地魚を使っているところもありますが、熱海の人がやっているので応援したい気持ちになります。

現在の活動を話す宇田さん

――地元の魚を食べるということも旅の醍醐味(だいごみ)ですね。

宇田 今まで未活用魚と言われてきた魚にも段々と値段が付いてきました。アオアジやタカノハダイ、ブダイなど、海藻を食べる魚は臭みがあるものの、全ての個体が臭いわけではなく、季節によっても異なります。カルパッチョ風にしたり、ぬたのような料理にしたりと、さまざまな料理も増えてきています。熱海の魚の新しい料理法を発信していきたいと思います。

――このような活動はいつから始めたのでしょうか。

宇田 父が2007(平成19)年に亡くなって私が社長になってからです。父は72歳で亡くなる前の10年間は透析をしていました。元々「お坊ちゃん育ち」だったようであまり仕事好きでもありませんでした。

なので、父の生前から実質的に現場を任されていました。新しいことをやろうとしても父に止められるので、父がいるうちは父の路線でやって、亡くなってから会社の方針を大きく変えました。干物以外に、燻製や魚のしょうゆ漬け、アンチョビーなど新しい商品の開発もしています。

――直営店の「まぐろや」も宇田さんが始めたのですか。

宇田 現在の第一ビル地下にある「まぐろや」は父の生前に始めました。実は、元々は第一ビルの2階で父が「まぐろや」をやっていた時期があり、結構お客さまも多く、はやっていました。でも、店の場所を買いたいという人がいたので売ってしまい、しばらくやっていなかったのですが、地下で物件が出たので、同じ「まぐろや」として再オープンしたというのがいきさつです。

今の「まぐろや」は海鮮丼や定食中心ですが、当初はすし屋でした。父は元々板前だったからいいのですが、自分はすしに関しては素人でした。お客さまからの悪い評判を聞いて職人を呼び、米の炊き方や酢の合わせ方から学びました。朝4時に起きて沼津の市場に行き、魚屋を営み、11時から食堂を開くという生活を3カ月続けましたが、体力的に厳しくなり、妻に調理場を任せるようになりました。メニューもすしをやめて、海鮮丼中心にしました。「まぐろや」が成功したのは、妻のおかげです。

連日行列ができる「まぐろや」

――他に宇田水産が大きくなったエピソードはありますか。

宇田 30~40代の頃は人を蹴落としてでも上に上がるような野心の塊でした。熱海魚市場の組合員でありながら、市場には行っていませんでした。組合員同士、他の魚屋が入っているところには営業してはいけないという規約があったからです。でもうちは攻めるときは攻めていた結果、売り上げは伸びていき、年商1億円もなかったのが2億円になり、お客さまも増えていきました。

でも50歳を過ぎてからは、人を蹴落としてまで上に行くのは疲れると思うようになりました。その後、PTA会長を務めていたこともあり、役に立つだろうからと魚市場に呼ばれ、意見を言っているうちにトントン拍子に魚市場の社長になりました。しかし、新しいことをやろうとすると反対も多く、とても難しいですね。

――他にエピソードはありますか。

宇田 熱海は小さい街ですが、伊豆山港、横磯港、熱海港、伊豆多賀港、網代港と5つの漁港があります。熱海魚市場には5つの漁港から魚が集まってくるので、魚の種類がとても多い。年間で約1500種類が集まってきます。温暖化の影響で南の魚が北上し、漁師でも見たことのない魚が取れることもあります。

かつては価値がなかった魚も、さまざまな料理法が開発されることで価値が生まれています。例えば、ウツボは干物にしたり、サメは剥製にしたり、エイはエイヒレの煮付けにしたりと、新しい使い方が生まれて価値が上がってきています。東京の居酒屋に食べ方と一緒に送ってあげると、とてもおいしかったと喜んでくれます。

本来、未活用魚という名前の魚はいないのです。マスコミはどうしても未活用魚という言葉を使いたがるのですが、私はテレビではなるべく未活用魚とは言わないようにしています。未活用魚という名前をなくすことが自分の仕事だと思っています。

あと、成長したターニングポイントの一つは、魚屋を定年退職した熟練スタッフをパートで雇用したことです。1日4~5時間の短時間勤務で経験豊富な70代の人たちを活用しました。そのスタッフたちが魚をさばき、若いスタッフが営業に出て会社が伸びました。

――ここまでありがとうございました。では続きは次の店で伺いましょう。次回、後編では宇田さんの未来の話を伺います。

開放感のある雰囲気の「ミスティ」

宇田さんお薦めのスナック「ミスティ」について

開業 1991(平成3)年4月

ママ 高橋玉江さん

席数 30席

営業時間 19時30分~24時

住所 熱海市中央町10-21

電話 0557-83-4469

「ミスティ」は熱海・伊豆山出身の明るいママが切り盛りするスナックとして、地元の人たちに親しまれています。

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聞き手 田中直人

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