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【熱海・経営者インタビュー vol.1】 「ACAO SPA & RESORT」代表取締役CEO中野善寿さん~民事再生と今後について~

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 特集「熱海・経営者インタビュー」1回目の今回は、統合型リゾート施設や不動産事業を手がける「ACAO SPA & RESORT(アカオスパアンドリゾート)」代表取締役CEOの中野善寿さんです。

 中野さんは2021年8月、当時の「ホテルニューアカオ」の会長に就任。以降、多額の負債を抱えて苦しむ同社の改革を推進。施設の老朽化やコロナの影響もあり営業を休止していたホテルを含む建物と土地を2022年、米投資ファンドに売却したほか、観光庭園「アカオハーブ&ローズガーデン」をLAND ART PARK「ACAO FOREST」にリニューアルするなどして、長年負債を積み重ねる一方だった経営を見直してきました。

 さらに、「熱海の価値を上げるため」(中野さん)の取り組みとして2021年に「ATAMI ART GRANT」を初めて開催。毎回50組ほどのアーティストが市内に滞在して作品を制作・展示するイベントで、2023年の第3回は延べ20万人が来場する熱海の一大アートイベントにまで成長しました。

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 就任以降、「熱海市民3000人と語る会」と称し、定期的に市民や事業者を集めて熱海の持続的な成長・発展を目指した計画を提案・共有してきた中野さん。空き家問題や労働人口の減少、教育問題など、街が抱えるさまざまな課題に取り組みながら具体的な計画を進めていこうという矢先の7月29日、同社は東京地裁へ民事再生法の適用を申請しました。

 突然飛び込んできたニュースに驚きと戸惑いを見せた市民もいたようです。今回、民事再生法の適用申請から1カ月がたち、その背景と今後について中野さんに聞きました。

「市民と語る会」を続ける中野さん

――民事再生法適用申請の真意を教えてください。

中野(敬称略):まず、誤解されやすいので説明すると、民事再生であって破産ではないということです。法律も分かれていて、民事再生は民事再生法、破産は破産法に基づいて措置されます。破産だと思って取り付けだとか給与が支払われないのではないかとかで周囲が騒ぐことがよくあります。今回の民事再生によって金融機関への影響はありますが、幸いにもほかの債権者は小口が多く、影響は小さかったというのが実情です。

就任した当時は120億円の借り入れがありましたが、一部不動産を売却したことで2023年12月には63億円にまで借り入れを減らしていました。2029年までに残りの全額も返済するプランを金融機関に出していました。

当初は民事再生ではなく、事業再生ADRを進めていました。金融機関の一部債権をカットして事業再生を図るための解決方法です。スポンサーからの意向証明書もそろい、ADRは予定通り成立する方向でしたが、直前で実現できないことになり、民事再生手続きに移行しました。同時に従業員向けに説明会を行い、給与の支払いは保全されることを説明しました。

――今後はどのように進んでいくのでしょうか。

中野:スポンサー候補企業からの入札が行われ、9月末にはスポンサー企業が決まる予定です。私が熱海に来た2021年ごろは、当社の土地に興味を示す企業はほとんどなかったのですが、熱海市への見方や当社の価値も見直されてきており、スポンサーとして多くの企業が関心を示してくれています。

――スポンサー企業に求めることはありますか。

中野:適当に土地を切り売りしたり、不動産で利回りを得たりということでは、熱海全体の価値を上げるという役割を果たせません。実施するかどうかはスポンサーの判断によりますが、当社の描いているプランはスポンサー候補企業と共有し、興味を持ってくれています。私たちが考えているプランを意識して進めてくれれば、熱海の地方創生とも連動できると思っています。熱海の文化性を大切にし、芸術家を支援するパトロンが世界から行きたくなるような熱海にしていこうという思いを持ってほしいですね。

アカオフォレストの最近の動きでは、園全体を貸し切りで貸し出すようなことをしています。この前は高級ファッションブランドが貸し切りで顧客の招待会を開きました。貸し切りで森やビーチを使える場所は、他にはなかなかありません。園内には神社もあり、神聖な場所というイメージもあります。革新的にアカオフォレストの価値が変わってきています。フラワー庭園という以前の位置付けでは競争力もなく単独ではビジネスにはなりません。競争力のないところに、これまでコストをかけてやってきていたので、切り替えないといけないと思っていました。

ADRも民事再生も対策ではなく、戦略として正しいタイミングで活用しています。これがうまくつながっていけば、当初の予定通り熱海の創生はさらに活気をもってステップアップしていけると思っています。

中野さんが描く「ACAO SPA & RESORT」のプラン

――中野さんが大切にしていることを教えてください。

中野:従業員を守ることと地域での役割を果たすことが自分にとっての正義であり、全てにおける優先事項です。今回のことを通しても、ほとんどの企業家はそう思っていないのが驚きでした。会社を守る気はあっても従業員を守る気がない。地域の役割を果たす気もない。たくさん給与を取っている経営者だけが助かりたいからでしょう。自社のために地域創生に取り組むのではなく、多面的な目線で役割を全うするような考え方をしなければいけないですね。

 

「ACAO SPA & RESORT」

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