
講演会「初島における水中考古学報告会」が6月9日、初島小中学校(熱海市初島)体育館で開かれた。
初島海域でこれまで行われてきた沈没船の調査・教育活動の成果を報告し、水中遺跡が文化財として持つ価値や地域資源としての可能性を知ってもらいたいと、初島区が主催した。共催は、NPO法人アジア水中考古学研究所(福岡市)、一般社団法人クロノナウト(鳥取県)、初島ダイイングセンター(初島)。
水中考古学を研究する茅ケ崎市教育委員会学芸員の田中万智さんと東京海洋大学大学院教授の岩淵聡文さんが登壇。地域住民や水中考古学の関係者など、約60人が参加して熱心に耳を傾けた。
第1部では、田中さんが3月に7日間にわたって行われた「初島フィールドスクール」の内容を報告した。初島沖の沈没船を活用した水中考古学の潜水作業の実務を学ぶために選考された10人が参加。実測図作成やデータ処理などの座学、測量や水中ドレッジと呼ばれる堆積物を除去する機械による発掘作業など潜水実習を行った。
田中さんは「昨今、水中考古学への関心が高まっているが、実際に潜水作業や発掘調査の実技を学べる環境は限られている。国内でフィールドスクールを行い、水中考古学の活動を継承していってほしい」と話す。
第2部では岩淵さんが登壇し、「初島沖沈没船の水中考古学」と題した講演を行った。初島沖の海底には、江戸時代に航行していた木造船が沈む。初島では古くから知られていたが、これまでしっかりした調査は行われてこなかったという。2011(平成23)年、アジア水中考古学研究所と東京海洋大学が中心となって調査を開始。日本財団、キャノン財団、朝日新聞文化財団の資金支援を受けて調査が続けられてきた。
岩淵さんは「沈むのは、江戸時代の木造輸送船『弁財船』で、下田御番所で検問を受けた後、下田を出航して初島沖で沈没したと思われる。水中ロボットを使った遺構検出図の作成などを行った」と話す。沈没船の積荷だったとされる徳川家の家紋『三葉葵』が掘られた江戸城の屋根瓦などを検出して3Dモデルを作成した。同大学の学生が海外雑誌に論文発表も行い、海外の水中考古学関係者からも注目されているという。
初島区の宮下泉区長は「瓦を運んだ船が沈んでいることは、子どもの頃から父に聞かされてきたが、調査でそれが明らかになった。日本でも珍しいとされる水中遺跡を今後どのように残し、生かすかが課題。報告会がそれを考える良いきっかけになれば」と話す。