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【熱海“シン・移住” vol.1】 新たな移住の動きは「消滅可能性自治体」脱却につながるか?

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 人気観光地の一つとして数えられる熱海。都心からの移住先としても人気で、仕事をリタイアした高齢者が老後を過ごす町というイメージが強かった熱海ですが、ここ最近では20~40代の若者やファミリー層の移住も見られます。

 本特集では、「熱海“シン・移住”」と題し、熱海における移住・定住の動き、実際に移住した“シン・移住者”のインタビューなどを数回に分けて紹介していきます。

地元保育園のイベントをサポートする商店街

温泉地として愛され、別荘地として発展した熱海

 温泉地として栄える熱海温泉の起源は、今からおよそ1250年前と言われます。鎌倉時代には療養地として多くの人が訪れていました。徳川家康が2人の子どもを連れて湯治で滞在したことも有名な話です。

 明治以降、別荘地として人気を集めた熱海に、政治家、文化人、実業家などが次々と別荘を構えました。現在は観光施設として観光客を受け入れている熱海市指定有形文化財「起雲閣」も元々は実業家の別荘でした。熱海に別荘を構えることは「憧れ」とされてきました。

 近年では、リゾートマンションや高齢者向けマンションが多く建てられ、リタイア層が都心から移住。老後をのんびりと熱海で過ごしたいというニーズは現在も続いています。

かつて実業家の別荘だった起雲閣

「消滅可能性自治体」熱海市の課題

 熱海市の高齢化率(人口に占める65歳以上人口の割合)は、2023年3月末現在で48.6%。日本全体の高齢化率29.1%と比較してもかなり高い数値となっています。

 さらに今年4月に発表された民間の有識者でつくる「人工戦略会議」による全国の地方自治体の「持続可能性」についての分析結果では、若年女性人口が2020年から2050年までの30年間で50%以上減少する「消滅可能性自治体」のうち最も深刻な「自然減対策と社会減対策が極めて必要」というカテゴリーに静岡県内で唯一、熱海市が分類されました。

 静岡県が公表している「令和5年静岡県推計人口年報」で2022年10月1日~2023年9月30日の1年間の市区町別人口動態表を確認すると、熱海市は人口増減率がマイナス1.79%(静岡県全体:マイナス0.80%)、自然動態の増減率がマイナス2.33%(同マイナス0.79%)、社会動態の増減率がプラス0.54%(同マイナス0.01%)となっています。

 一見すると社会動態がプラスであり、先に述べた「社会減対策が極めて必要」とされていることと矛盾があるように感じますが、社会動態がプラスの背景には、宿泊施設などで働く外国人の転入者数が大きく寄与している点が挙げられます。市によると、2021年は人口3万5167人のうち外国人は652人だったのに対し、2022年は人口3万4433人のうち外国人786人、2023年は人口3万3934人のうち外国人1001人、2024年6月末時点で人口3万3556人のうち外国人1133人。年々、外国人の人口が増加しています。静岡県の示す熱海市の社会動態がプラスになっている結果を手放しで喜べない実情がうかがえます。

 2018年の熱海市のデータで、50~59歳と60歳以上の年代別カテゴリーにおいては、転入数から転出数を引いた人数はプラスで「転入超過」だったのに対し、それ以下の年代別カテゴリーでは、全ての層でマイナスを示し、「転出超過」という結果となっています。

 若年層の市外への流出が進むのと合わせて自然減も続くという熱海市の状況をデータが明らかにしています。「消滅可能性自治体」の発表後に行われた4月の定例会見で、斉藤栄熱海市長は「交流人口が移住につながる仕組み、民間住宅を子育て世代や働く世代にリーズナブルな価格で提供するなどの行政サポートを進める」と具体策を示し、人口対策の必要性を強調しました。

高齢化率50%に迫る熱海市。高齢者向けスマホ教室の様子

熱海市の移住支援

 熱海市の移住対策は観光建設部観光経済課が担当しています。熱海の基幹産業である観光の発展が移住・定住につながるという考え方で同課が役割を担っているとのこと。今回、同課の担当者に市の移住対策の動きについて話を聞きました。

 現在、熱海市では首都圏の移住検討者に市をアピールする取り組みとして、静岡県が毎年主催している「静岡まるごと移住フェア」に出展しています。直近では7月7日に東京交通会館(東京都中央区)で開催されました。毎回20組ほどの移住検討者が熱海市のブースを訪れるそうです。加えて、市の担当者が個別に移住の相談に乗る「移住相談会」を同じく東京交通会館の静岡県移住相談センターで年2回ほど行っています。同課の藤間芳恵さんは「観光が盛り上がっているので、その良いイメージで相談に来る人もいますが、住むという目線で現実的な熱海も伝えるようにしています」と話します。「熱海の家賃や物価など、イメージと実際とのギャップが大きいケースもあり、実際に移住してから失敗したとならないように、ミスマッチを防ぐことを大切にしています。良い面だけでなく、不便なことも理解してもらった上で移住してほしいと思います」とも。

移住支援に取り組む熱海市の観光経済課

 熱海市は移住のために活用できる補助金として、静岡県の補助金に連動して「移住・就業支援金」を交付しています。

 東京圏から熱海市に移住して就職または静岡県が実施する支援事業を受けて起業した人に支援金を交付する制度です。条件を満たせば、単身で移住した場合は60万円が、2人以上の世帯で移住した場合は100万円が、それぞれ交付されます。さらに、18歳未満の世帯員を帯同して移住する場合、2023年4月以降は、18歳未満1人につき100万円が加算されます。

 熱海市では2019年に受け付けを始めましたが、1年目と2年目は申請者はいなかったそうです。2021年に、テレワークや関係人口も要件に加わったことで申請者が増え、同年は9件、2022年は21件、2023年は23件の申請があったとのこと。30~40代の単身か夫婦の世帯が多いといいます。同課の松井篤士さんは「支給要件が限定的なのは、働く世代の移住を積極的に支援したい背景があります。実際に若い人が多く補助金を活用しているのは、良い傾向だと思います」と話します。

 「コロナでテレワークという働き方を企業側が認めたことで、補助金を活用した移住に結びついているのは熱海としては一つの成果」と同課の芹澤元一さん。一方で課題として、「住まい、子育て環境、仕事などと合わせた総合的な取り組み」を挙げます。特に住居問題は大きな課題で、ファミリー層や若年層が熱海に移住したくても住める物件が熱海に少なく、結果として周辺の市町に流れている傾向が見られます。

 芹澤さんは「県が推進している企業誘致も人口対策につながる施策です。熱海市も産業フェアに出展して市をアピールしていますが、企業側が希望するような物件の有無がネックになっている現状があります。網代の廃校を活用したオフィススペースの提供など民間の取り組みも始まっており、さまざまな課題を官民一緒に解決しながら取り組んでいきたいと考えます」と話します。

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 次回以降、移住者や移住者をサポートする人へのインタビュー、新しい移住に関する動きなどを紹介していきます。

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