かつて熱海銀座商店街を照らした映画館「ロマンス座」のネオン看板を再現したデザインの外壁がこのほどお披露目され、話題を集めている。
ネオン看板が明るく輝くかつての「ロマンス座」(関連画像3枚)
映画館が入っていたビルの1階で現在も営業を続ける「花菱洋品店」(熱海市銀座町)は、2月中旬にビルの外壁塗装工事に着手。4月上旬には工事の足場が外され、かつてのロマンス座のネオン看板をかたどった「RomanceZa」と描かれた外壁がお目見えした。撮影する人の姿やSNSで「これはしびれた」などの投稿が見られるなど注目を集める。
映画館「ロマンス座」は1951(昭和26)年に開館。全盛期にはロマンス座を含めて熱海市内には7館の映画館があり、多くの住民や観光客が娯楽を楽しんだ。2002(平成14)年に休館。2010(平成22)年ごろには、熱海に残る最後の一館として歴史に幕を下ろした。
商店街の象徴の一つだった巨大なネオン看板について、同店店主の大野勝也さんは「いつ撤去したかは定かではないが、時代の移り変わりとともに消防法によって撤去せざるを得なくなった」と話す。看板を撤去した箇所は穴が空き、長くそのままの状態が続いていたため、今回、工事を行ったという。
同店も「ロマンス座」と共に商店街で歴史を歩んできた。1946(昭和21)年に開店した同店だが、市街地の大部分を焼失させた1950(昭和25)年の「熱海大火」で被災し、建て替えを余儀なくされた。大野さんも大火を経験した一人。「防災がまだ発展していない時代。バケツリレーで消火したが、火の勢いは収まらなかった。火が渦を巻いて街を飲み込んだ」と振り返る。
大火の翌年、建て替えた店の上階に誕生したのが「RomanceZa」の巨大看板を掲げた映画館だった。「夜は真っ赤に光って本当にきれいな看板だった。ローマ字で書かれたモダンなデザインの看板だが、放映する映画は『男はつらいよ』など日本の映画ばかり。寅さんの音楽が商店街に響き、人がたくさん集まってきた」と大野さん。甚大な被害をもたらした熱海大火からの復興の象徴ともいえる「ロマンス座」の明かりに、市民は希望を感じたという。「こんな小さな熱海にたくさんの映画館があり、多くの人が楽しんだ映画全盛期の時代だった」とも。
看板を再現した思いについて、大野さんは「銀座商店街の中で大きな壁面はここにしかない。その大壁面をやっときれいにできて良かった。これが今後の商店街のためになれば。商店街を通る人たちを楽しませることができたら」と話す。