熱海・伊豆山地区の土石流災害の発生から8月3日で1カ月がたった。行方不明者の捜索が続く中で、地元の事業者らは地域住民やボランティアと共に復旧活動を続けている。
土石流の影響で通行できなくなっていた国道135号の通行止めが7月29日、解除されたのに合わせて、国道沿いの弁当店「喜与味(キヨミ)」(熱海市伊豆山)では弁当の販売を再開した。社長の高橋一美さんは「災害の前は1日500個程度を販売していたが、今は100個程度。まだ配達できる状態ではないので、地域住民やボランティアの人に購入してもらっている」と話す。
7月3日に発生した土石流では、店の1階に土砂が流れ込んだ。高橋さんは土石流の第1波があったとき弁当の配達に出ていたという。帰る途中に友人から送られて来た写真で土石流の発生を知った。店に戻ったころには国道135号を土砂が覆い始めており、他の住民と共に道路の交通誘導を始めた。交通誘導を始めてすぐ第3波が押し寄せ、瞬く間に国道を土砂が覆い尽くしたという。高橋さんは「なすすべもなく、動画を撮影しながら土石流で家が押し流されていくのをただ眺めるしかなかった」と振り返る。
水道とガスが止まったため、店は休業せざるを得なかった。店の4階にある自宅に被害はなかったため、高橋さんは被災後も伊豆山に残って復旧とボランティア活動を行ってきた。高橋さんは「44歳でも地区の中では若手。地域のためとか、ボランティアとか、元々そういうタイプではないが、周りは年寄りも多く、動ける人間は限られていた。店も国道もこんな状況だし避難所に行ってもよかったけれども、町内のためにやらなければならないことがある。隣町の湯河原に行けば、温泉もあるし買い物もできたし、自宅での生活も何とかなったので残った。この1カ月、何か計画的に活動してきたわけではなく、目の前の困っている人や問題を片付けようと動いてきただけ」と話す。
高橋さんは、熱海市役所に届いた支援物資の日用品や食事を地区の防災センターや高齢者宅に仲間とともに届けたり、ボランティアと道路や建物を覆った土砂を片付けたりしてきた。足りない物や地区の状況は、写真やメッセージで熱海市議らにリアルタイムで情報を送った。「この地区に起きている問題に対して、今すぐ決断が必要なことがある。住民にとっても町内にとっても、私がハブの役割で動いてきた。私の会社や従業員のこともあるが、今は家族もサポートしてくれている。自分が育った町内のために恩返しできることをしたい」と語気を強める。
先月21日から熱海市が窓口になり、外部の災害ボランティアの活動も始まっている。それでも高橋さんは、地元の人が積極的に活動する必要性を感じているという。「地元の人でなければわからないこともある。庭を大事にしていたおばあちゃんの庭なら、それをわかった上で庭に入った土砂を取り除いてあげたい。土砂をかぶって捨てられそうだった自転車も、乗っていた人を知っているからきれいにして返してあげたい。外部のボランティアの人が、これだけ一生懸命に伊豆山のために動いてくれていることを記録して地元の人にも伝えたい」とも。
同店は、伊豆山地区で青果店として創業。卸業を経て、現在の弁当店になった。地域住民への小売りに加え、熱海市内などの事業所への宅配や仕出し弁当の販売を行なっている。保存料や着色料は使わず地元の食材を中心に作るという弁当は「坂道や階段の多い伊豆山地区で、特に高齢者にとって無くてはならないもの」となっている。
高橋さんは「土石流災害は最悪の出来事だったが、復旧活動で協力してくれている人のつながりには本当に感謝している。多くの人の力で再建が進みつつあることを忘れないように、これからも情報を発信していきたい。弁当店は盆明けくらいに本格的に再開したいが、焦らずに、まずは町のためにやるべきことをやっていきたい」と話す。