「ACAO SPA & RESORT」(熱海市熱海)が3月4日、新しい人事制度の導入と合わせて4月から全社員の個人年俸の引き上げと年俸上限3000万円への引き上げを行うと発表した。
昨年8月、寺田倉庫の前社長兼CEOで天王洲エリアの開発などを手掛けた中野善壽さんが会長に就任し、10月に社名を「ホテルニューアカオ」から「ACAO SPA & RESORT」に変更した同社。11月でニューアカオ館の営業を終了し、現在はHOTEL ACAOとACAO FOREST(旧アカオハーブ&ローズガーデン)の運営のほか、所有する70万平方メートルの土地を生かした新規事業、アートプロジェクトなどを進めている。
今回の発表で同社は、「変革期における優秀な人材の獲得と働きがいの向上」を目的に、4月から採用時の年俸上限を従来の2倍以上に当たる3000万円に刷新し、全社員の年俸を1人当たり5~20%引き上げるとしている。
同社では、昨年からさまざまな人事制度を導入して社内改革を進めてきたという。その一つ「360度デキゴト評価制度」は、日々の仕事を社員同士が評価し、良い点は「サンクスカード」、改善を促したい点は「ドクロカード」をそれぞれ渡して枚数に応じて年俸に加算される。このほか、首都圏など遠方からの通勤にかかる交通費を会社で負担する「新幹線通勤制度」、部門長を年齢や等級ではなく社員の投票で選ぶ「社内ドラフト制度」などを導入し、社内制度の改善に着手する。
中野さんは「人事改革なくして、アカオの再生はない」と力を込める。「まじめなスタッフが多いことが当社の良いところ」とする一方、「いかに社員のモチベーションを上げるかということが、当社だけでなく国内や熱海の宿泊業に足りないところ」と話す。昨年の東京オリンピック・パラリンピックの開催で国内では宿泊施設の開業が相次いだが、新型コロナウイルス感染拡大による消費活動の自粛、旅行客の減少が響き、宿泊事業者の経営難や人材の流出などが発生。業界全体で恒常的な人材不足が深刻化しているという。
今回の年俸引き上げや人事制度の導入により、優秀な人材の確保、社員のモチベーションの向上を目指すことと併せて「業界の風習に風穴を開けたい」という狙いがある。宿泊業の過剰なサービスによる従業員の重負担、低賃金を変えて「サービス業の新たなモデルを作っていく」という思いで取り組むという。
同社では、人事改革を推進しながら、地域に新たな客を呼び込むために同社の資産を生かした新たな投資や料金の見直しを計画する。フォトスポットとして若い観光客を中心に人気のACAO FORESTの魅力をさらに高めるために、園内にベンチや休憩場所などを新設する。園の入り口に位置し4月中旬にリニューアルオープンを予定して現在改装中のレストラン棟は、天王洲の「T.Y.HARBOR(ティー・ワイ・ハーバー)」を手掛けるタイソンズアンドカンパニー(東京都品川区)と合弁で設立した「ACAO BLOOM」が新たな飲食業態を準備する。前面の国道を通過する移動客も取り込むことで、2019年に年間28万人だった来場者を段階的に2025年に34万人まで増やす計画だという。
中野さんは「ACAO FORESTだけでなくビーチなど魅力的な資産に投資できていない。富裕層がお金を出して行きたくなるような価値がある場所に変えていく。熱海の魅力を高めるという役割を当社が担い、再生につなげていきたい」と意欲を見せる。