熱海に移住した夫婦がファッションブランド「YOLK(ヨルク)」を立ち上げて1年がたった。
YOLKを立ち上げたのは、中根泰希さんと中村理彩子さん夫婦で、昨年5月に熱海に移住し、同時期にファッションブランドYOLKをリリースした。理彩子さんはファッションデザイナーで、泰希さんがブランド経営を担い、夫婦二人三脚で走り始めた。
現在27歳の理彩子さんは、大学でデザインリサーチのゼミに所属し、3Dなどデジタル技術を使ったデザインを学んだ。大学を一時休学し、専門学校で洋服づくりの基礎も習得。日本の伝統工芸が好きで、漆芸家とコラボレーションした服を製作してファッションショーも開いた。理彩子さんは「伝統工芸が生活に登場するシーンを意識してデザインする」と言い、大学卒業後は、伝統的な劇場で使われる旗を使った服をデザインするなど、クリエーターとして創作活動を続けた。
26歳の泰希さんは、理彩子さんと同じ大学でサービスデザインを学び、21歳で学生起業をしてIT関連事業を立ち上げた。現在は事業から離れたが、電動キックボードのモビリティー事業などを展開した経験を持つ。今回は、理彩子さんがファッションデザイナーに集中できるようにと、ブランドの経営面をサポートする。
YOLKは、「日本女性を美しくするドレス」をコンセプトに、日本の行事や空間、文化に合うイメージにドレスをデザインする。ブランド立ち上げの経緯について、理彩子さんは「コロナ禍でファッションショーなどのイベントがなくなってしまった。実際に人に服を着てもらう機会を増やすことで、自分を表現したかった」と話し、「結婚式の参列に着るドレスは個性がないものが多い。派手過ぎず、ほかの人と被らない、主役に敬意を表するデザインを大切にしたい」と説明する。
これまでにYOLKとして、約20種類のドレスをリリース。都内のギャラリーでの催事や同ブランドのホームページで一着当たり4万円から7万円ほどで販売する。現在は、約2カ月ごとに新作をリリースし、売れ行きは好調だという。最近では、茶道とコラボしたイベントも開き、和の空間でドレスを表現する。同ブランドのインスタグラムのフォロワーは、既に5000人を超える。
熱海を移住先に選んだのも、アートと伝統が街に点在することが決め手だったという。「熱海は、尾形光琳や谷崎潤一郎など好きな作家がかつて過ごしたところ。MOA美術館もあり、芸術と自然が融合した街。新しいことを受け入れてくれる雰囲気もある」と理彩子さん。泰希さんも「街の人が温かく迎え入れてくれて、街と深く関われる印象が強い」と話す。
今月、市指定有形文化財「起雲閣」(昭和町)で、ドレスを着用したダンサーを使ったショートムービーを撮影した。理彩子さんが描いたストーリーに基づく映像作品になるという。7月2日・3日には、東京・自由が丘で和菓子とコラボした試着会の開催を予定する。
今後について、理彩子さんは「熱海の旅館と一緒に試着イベントを実施したり、文化財の建物などを使ってドレスとストーリーを発信したりする試みができれば。YOLKの常連のお客さまが熱海を楽しむ機会も増やしていきたい」と意欲を見せる。