特集「熱海・スナックと私」では、市内の経営者にお薦めのスナックを紹介してもらいながら、これまでの人生やこれからの経営ビジョンなどを伺います。聞き手は、熱海経済新聞副編集長でボイストレーナー「たーなー先生」としても活動する田中直人です。
前回は、江戸時代から160年以上続く老舗干物店「釜鶴」5代目の二見一輝瑠(ひかる)さんにインタビューしました。今回は、1806年創業の老舗温泉宿「古屋旅館」17代目の内田宗一郎さんに話を伺いました。1973(昭和48)年生まれで、現在51歳。熱海温泉ホテル旅館協同組合理事、熱海商工会議所青年部顧問、熱海市観光協会副会長などを務める内田さん。旅館のほか、現在では市内でスイーツ店も経営しています。3回に分けて、内田さんのこれまでの取り組みや思いについてお伝えします。
前回の記事
【熱海・スナックと私 vol.4】 「古屋旅館」社長・内田宗一郎さん(前編:Bar Negroni)
――2軒目に選んだ「スナック縁(えん)」について、魅力などを教えてください。
内田 最初は店のインスタグラムを見て、すごく盛り上がっている店だという印象を受けました。誰かの紹介で店に来てみると、ママが素晴らしい人柄だと分かり、そこから足を運ぶようになりました。ママはJCの後輩ということもあり、よく店を使わせてもらっています。
スタッフの接客も良く、ありそうでなかなかない店だと思います。
接客が良いと評価する「スナック縁」
――前回からの続きで、2015年前後の話を聞かせてください。
内田 御鳳輦(ごほうれん)が中心でした。今ではあり得ないと思いますが、男女で72人が参加しました。自分はそれまで、みこしとはあまり縁がなかったので、幹部などの役は遠慮しようと思っていましたが、本部長をやることになりました。
御鳳輦は全国でも珍しい行事だと思います。42歳の年に同級生が集まって1年間かけて来宮神社の例大祭に向けて活動し、最後にみこしを担いで終わるという内容です。その年は神社の催しに参加したり、賛同金を集めに回ったりと、仕事もしながら会を取りまとめていくことがとても大変でした。
でも、42歳にもなって人から叱られたり、同級生と意見との対立をまとめたりする経験から学んだことは大きかったです。御鳳輦が終わって先輩方から、目つきや表情が変わったと言われたので、苦労して良かったと思います。
――2015年以降、旅館ではどのような取り組みをしましたか。
内田 2015年に社長に就任して積極的に投資を進めました。同年、温泉内風呂付き客室に2室をリニューアル。2016年、女子大浴場をリニューアルしました。対外的には、観光協会の副会長になり、街のことを深く知っていきました。
この頃から特に感じたのが人手不足です。労働人口の減少という背景もありますが、コロナ禍でいったんサービス業を離れた人がコロナ後に戻ってこなかったということもあります。従業員の幸せを大事にしようという考え方に明らかにシフトしていきました。
人はどうしてもサービスする側よりもされる側にいたいわけです。ただ私も同じように、人に喜んでもらうことが人生の喜びという人が少なからずいて、そういう人で宿泊業界は成り立っています。将来的にも日本が世界に誇れる業界が観光になっていくと思います。
旅館での取り組みを語る内田さん
――コロナ禍における対応を教えてください。
内田 先代の父から度々言われていたことが、10年か15年に1回は必ず経営危機が来るということです。東日本大震災、ITバブル崩壊、バブル崩壊、戦争などが実際に起こっています。ITバブル崩壊の時にも、旅行客が激減した時に頑張って投資した旅館が、その後とても元気になっている姿を何例も見てきました。同じような状況が来たら実行しようということを準備していました。
そこにコロナが来たので、最低1カ月は休業しなければできない女性用の大浴場の工事にすぐに着手しました。それは、いつでも実行できるように設計図を作っていたからです。準備が一番大事です。
――現在取り組んでいることはどんなことでしょうか。
内田 一つは、また新しく従業員寮を作って住環境の改善、求職者に選ばれやすい会社になることを目指しています。
最近では、会社を株式会社化して資本政策を行いました。さらに夏までには古屋旅館ホールディングスとして持ち株会社を作る予定です。経営と所有を分けて責任を明確にすることと、機動的に企業活動をできるようにするためです。
古屋旅館が新設した従業員寮の一室
――旅館を増やしていこうというお考えはないのでしょうか。
内田 旅館を増やすことに今は興味がなく、まずは企業理念に掲げる「日本一の老舗旅館」になれるように26室の旅館でどこまでできるかを追い求めたいと思います。多店舗展開となると、大手ホテルチェーンのようにまた違う能力が必要になってきます。
――現在、スイーツ事業を展開していますが、どのような背景からでしょうか。
現在展開しているスイーツ事業は、接客の技術やおいしいものを提供したいという思いが現在の事業と共通の領域にあり、自分自身が特に興味がある分野ということでスタートしました。
おかげさまで順調です。スイーツ事業は、展開の幅が広く、アイデア次第でどんどん伸ばせるという感触を得ています。アイデアと機動性を生かすことで、新しい体験をお客さまに提供できる業態だと感じています。
古屋旅館が手がける高級パフェ専門店「十全十美」
――お客さまと接している中で感じていることはありますか。
内田 スイーツにしても旅館にしても、わざわざここに来るために熱海旅行に来ましたという声をよく耳にします。それをモチベーションに、選ばれる旅館であり店であることを認識してさらにしっかりやらなければと思います。
従業員の給与水準も毎年上げて、収入と仕事の両面で満足できるような企業を目指しています。近隣エリアの中で熱海の旅館に就職するのがステータスと思われるような世界にしていきたいと考えています。
――ここまでありがとうございました。では続きは次の店で伺いましょう。次回、後編では内田さんが描く会社と熱海の将来についての話を伺います。
内田さんお薦めの「スナック縁」について
開業 2020年1月
店主 小嶋里佳さん
席数 10席
営業時間 20時~翌1時
住所 熱海市中央町10-7
電話 0557-86-0223
20~30代の女性が接客するアットホームな雰囲気のスナック。カラオケや酒を楽しめて、地元客や観光客に親しまれています。
「古屋旅館」過去の記事
【熱海でワーケーション vol.11】上質なワークスペースを併設、創業200年の温泉宿「古屋旅館」が提唱する旅の新しい形
熱海の老舗・古屋旅館、温泉熱の活用で成果 10年計画で重油代ゼロ化達成
熱海にパフェ専門店「十全十美」 静岡産果物や自家製ジェラートで華やかに
聞き手 田中直人