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熱海・渚町に出店続く 老舗店が根付く下町エリアで新旧が融合

飲食店などが立ち並ぶ渚町「なぎさ中通り」の路地裏

飲食店などが立ち並ぶ渚町「なぎさ中通り」の路地裏

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 熱海湾に面した渚町エリアでは新店のオープンが相次いでいる。都内で実績を積んだフレンチ居酒屋から、カフェ併設の個性的な美術館まで、これまで熱海駅前や熱海銀座商店街に押されて空き店舗が目立っていたエリアが、脚光を浴びつつある。

渚町の中央を南北に貫く「なぎさ中通り」

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 渚町の中央を南北に貫く「なぎさ中通り」に3月31日、フレンチおばんざい「marunowa(マルノワ)」が開業した。店主は熱海出身で、都内やフランスで修業し、昨年まで東京・三軒茶屋でグリルバルを経営していた。空き店舗となっていた小料理店の内装を生かし、地元産の魚介も取り入れた「フレンチおばんざい」というスタイルに再構築して、熱海に移転オープン。開店して間もないにもかかわらず、地元の客を中心ににぎわいを見せている。その2軒ほど隣には、1月に「熱海煮干しらーめん はら」がオープンした。現在は一時休業中だが、市内では珍しい「朝ラーメン」が食べられると話題を集めた。

 同じく「なぎさ中通り」には昨年11月、干物と日本酒の店「yoshi-魚-tei(よしうおてい)」がリニューアルオープンした。「干物屋ふじま」の直営店で、市内の別の場所で経営していた居酒屋と統合し、渚町の同店に集約した。「ハイパー干物クリエーター」こと藤間義孝さんが作る干物を目当てに、わざわざ都内から訪れる客も少なく無いという。同じく昨年、5月に開業したのが「nagisArt cafe(ナギサートカフェ)」。メインの通りから路地に入った場所で、元々はシェアハウスだった場所を改装し、現況を生かしたおしゃれな内装が客を引き付けた。その2軒隣にはワインバル「Le palais あたみバール」が店を構える。いずれの店も、市外から移住した別の女性が経営する。

 国道135号線の上り線沿いには、3月に1周年を迎えたフルーツサンド専門店「熱海フルーツキング」、昨年10月に開業したばかりの「熱海渚町 おさかな丼屋ビストロ」があり、行列の絶えない人気店となっている。

 同エリアは、飲食店以外の開業も目立つ。昨年12月に、渚小公園の西側に開館した「熱海山口美術館」は、旧タクシー会社の事務所とマンションの部屋を改装し、1階にカフェを併設。ピカソなどの名画に加え、村上隆、草間彌生、岡本太郎などの現代作品まで約200点を展示する。マグカップへの絵付け体験もでき、「体験と学びの美術館」としている。その近くには、現代アーティストが経営する「アトリエ&ホステル ナギサウラ」がある。築70年の割箸屋だった建物をリノベーションして宿泊施設に生まれ変わり、一昨年9月に開業した。昨年12月には、環境問題に取り組む地元の企業が、空きビルを改装してコワーキングスペースとカフェの複合施設「マリンスクエア」を立ち上げた。いずれも新たに建物を新築するのではなく、空きビルや使われなくなったスペースを活用して開業に至っている。

 渚町は、国道135号線の上り車線と下り車線に挟まれたエリアで、昔ながらの風情が残る。この辺りは熱海の発展とともに、海岸線の埋め立てにより造成され、現在は熱海海上花火大会の観覧や、遊覧船の発着、イベントの開催、市民や観光客らの散歩道として使われるデッキがおしゃれな雰囲気を醸し出している。渚町は、その海岸埋め立て工事が行われていた1950(昭和25)年4月に発生した熱海大火により、多くの建物が焼失した。渚町は大火からの復興と合わせて発展を遂げ、居酒屋やスナック、風俗店などがひしめく歓楽街となった。

 渚町には、当時から営む老舗の飲食店が残ることでも有名。熱海に別荘や居を構えていた文豪、著名人が頻繁に利用していた名店もあり、今でも昔からの常連客に支えられて繁盛している。1946(昭和21)年に創業した洋食レストラン「スコット」、1947(昭和22)年創業のカフェ&レストラン「Nagisa」、1959(昭和34)年創業の純喫茶「田園」、1951(昭和26)年創業の「淡路寿司」などは、渚町の代表的な店の一つとして挙げられる。「町中華」も熱海には老舗が多く存在し、1931(昭和6)年創業の中華料理店「幸華」、1947(昭和22)年創業のラーメン店「わんたんや」は、いずれも渚町で店を営んでいる。

 昭和20年代後半に祖父が渚町で材木店を始め、現在は旅館用品の卸販売を生業とする吉野屋商会の茶田勉社長は「祖父が奈良から熱海に移り住んで材木店を始め、その後、父が割箸店に事業変更した。昭和40年代の幼少期、渚町はすでに歓楽街として栄えつつ、住んでいる人もたくさんいた。バブル崩壊以降、寂しくなり空き家や空きビルも目立つように。大規模再開発の話も出たりしたが実現に至らなかった。そんな中で、渚町を変えようと若い人たちが動き始めたのが、2013年のリノベーションスクール。渚町の良さを生かしながら、人が集まる場所にしようという流れになった」と当時を振り返る。「渚町は昔から、飲食店と暮らしている人とが混じり合った下町の良さがあった。観光客で溢れる銀座商店街や駅前とは一味違った、渚町らしい下町の良さを残しながら、住む人も増え、居心地の良い場所として発展していければ」と期待を込める。

 今後、渚町を含む海沿いのエリアは「熱海港湾エリア賑わい創出整備計画(案)」にもあるように、中長期的な整備計画案が示されている。新旧が入り混じりながらも、どこか熱海らしい「昭和感」を保ったまま発展する渚町エリアに注目が集まる。

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