熱海の作家・中尾ちゑこ(本名・千恵子)さんが9月17日、小説「熱海 起雲閣物語 グレビレア・ロブスタ」(長倉書店)を出版した。
起雲閣のタイルをデザインした「熱海 起雲閣物語 グレビレア・ロブスタ」表紙(関連画像4枚)
浜松市出身で熱海市在住の中尾さんは、企業の海外向け資料編集、貿易業務代行などビジネスマッチングコンサルタント、セミナー講師として活動。2011(平成23)年に中尾ちゑこのペンネームで執筆を始めた。同年に出版した「つるし雛の港」(文芸社)で日本文学振興賞を受賞。2017(平成29)年の「熱海残照」(羽衣出版)では伊豆文学賞最優秀賞を受賞している。「起雲閣物語」では、起雲閣が建設された当時から住み込みで働く母娘を主人公に、太平洋戦争や二・二六事件、熱海大火などを背景に、さまざまな人間模様を描いたという。
起雲閣は1919(大正8)年、実業家で農林大臣なども歴任した内田信也が別荘として建てた。その後、鉄道王と呼ばれる根津嘉一郎が別荘として購入。1947(昭和22)年に桜井兵五郎が買い取り、旅館を開業した。2000(平成12)年に熱海市所有となり、熱海市指定有形文化財に登録されている。
小説には、内田ら3人の所有者をモデルにした人物も登場する。表紙には、起雲閣の洋室に実際に使われているタイルのデザインをあしらった。タイトルの「グレビレア・ロブスタ」は、起雲閣の庭に植わる樹木の名前から取った。
小説を書くに当たり、中尾さんは3人の故郷や当時の職場などを回って資料を集めたという。10月2日に起雲閣音楽サロンで開いた出版記念祝賀会で、中尾さんは「取材を通して3人の人間性も見えてきて、登場人物のキャラクターが出来上がった」と振り返る。「小説の内容は起雲閣の歴史の氷山の一角。起雲閣をよく知ってもらうきっかけになれれば」と話した。
価格は1,980円。静岡県内の主な書店やアマゾンなどで販売する。