映画関係者らに惜しまれつつ15年前に閉店した東京・世田谷の洋食店「パナシェ」が、創作和食レストラン「ぱなしぇ」(熱海市下多賀)として熱海で営業を再開して3カ月がたった。
かつて映画関係者らを虜にしたという人気の「和風オムライス」が復活
かつて東宝スタジオ(東京都世田谷区)の近くにあった洋食店「パナシェ」。横浜出身の勝亦俊文さんが1992(平成4)年、31歳で独立して開業した。横浜・関内のフランス料理店やステーキ店で13年ほど修業したという勝亦さんは、洋食と和食を組み合わせた料理を提供したいと、フランス語で「混ぜ合わせた」という意味の「パナシェ」という店名で開業した。
開業するとすぐ、東宝スタジオを使う映画関係者や俳優が足しげく訪れる店になり、要望に答えてロケ弁の提供も始めたという。勝亦さんは「開業したのはちょうど30年前。今では有名な映画監督や映画会社の役職を務める人が、若い頃には毎日のように使ってくれていた」と振り返る。「店では特に『和風オムライス』が人気だった。ロケ弁も手作りで、日によって具材が変わるクリームコロッケが定番だった」とも。
人気店だったパナシェだが、勝亦さんは両親の介護のために15年続けてきた店を閉店。両親の住む横浜に戻り、介護施設の調理室長として働いてきたが、昨年秋ごろから「夢だった宿泊できるレストランをやりたい」と、趣味のカヌーができる海の近くで物件を探し始めたという。勝亦さんは「ほかの候補地もあったが、最終的に海を望むこの網代の物件に決めた。元保養所の建物をうまく生かせると思った」と話す。
5月に熱海に移住し、8月16日の開業にこぎ着けた勝亦さんは、ラジオ番組で「大きな奇跡を体験した」という。伊集院光さんがパーソナリティーを務める番組で、東宝スタジオで働いていた男性が「閉店したパナシェのロケ弁が忘れられないのでまた食べたい」と情報の提供を求めた。当時、店に通っていた映画監督や関係者らから情報を集め、勝亦さんに連絡が届いたという。勝亦さんは「連絡が来てラジオが放送されたのが3月。熱海での出店を決めたタイミングだった。しかも、情報を募集した男性というのが、偶然にも今の店のすぐ近くに住んでいる人だった」と話す。「タイミングと場所がこんなにも重なることが信じられない」とも。
メニューは、当時のメニューと大きくは変えず、人気だった「和風オムライス」や「牛すじカレー」「和風明太子(めんたいこ)スパゲティ」などをそろえる。ランチはサラダとデザート付きで1,000円で提供。ディナーでは、オムライスや酒に合うつまみなどを用意する。
宿泊にも対応し、料金は1泊2食付きで1人=1万3,500円。1日2組限定。夕食は伊豆の野菜やイノシシ肉の生ハムなどを使ったコース料理を提供する。
勝亦さんは「こんな山の上にある店まで、ラジオで再びつながった映画関係者のお客さまが来店してくれている。話好きな性格なので話し込んでしまうかもしれないが、のんびりしてもらえるような店にしていきたい。誰でも気軽に使ってほしい」と話す。
営業時間は、11時30分~14時30分、17時30分~20時30分(金曜・土曜のみ)。水曜定休。駐車場あり。