熱海が現在、特に力を入れているのが「ワーケーション」です。聞き慣れた言葉になってきましたが、ワーケーションとは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。コロナ禍を挟んでも、この数年は順調に発展を続ける観光地としての熱海が、なぜ今、ワーケーションに力を入れているのでしょうか? 数回に分けて、熱海でのワーケーションの動きやワーケーション施設を紹介していきます。
これまでに、熱海の特徴的なワーケーション施設やワーケーションモデルツアーの様子をリポートしました。今回は、まちづくり会社「machimori(マチモリ)」が行っている企業研修を紹介します。
これまでの記事
【熱海でワーケーション vol.1】熱海が目指す“新しい滞在”の形
【熱海でワーケーション vol.2】まさに“泊まる美術館”「キュレーションホテル桃山雅苑」
【熱海でワーケーション vol.3】ゲストハウス「熱海・網代の風」を拠点にワーケーションモデルツアー
熱海のまちづくりに取り組む「machimori」は2018(平成30)年から、高齢化や空き家問題など課題先進地といわれる熱海の地域課題をテーマにした人材育成研修や地域共創事業に取り組んでいます。2022年には、実践型研修プログラムとしての社会共創事業「GeNSEn(ゲンセン)」をスタート。市外の企業に熱海に来てもらい、フィールドワークやワークショップなどを実施して研修の機会を提供しています。
プログラムは、事業開発スキル、チームビルディング、リーダーシップなど、企業のニーズに応じてカスタマイズ。通常は1泊2日、2泊3日で実施することが多く、街歩きや観光施設を訪れてのフィールドワーク、熱海の経営者・住民へのインタビュー、グループディスカッションなどが組まれています。
研修で大切にしているのが「越境」と「体感」。普段自分が身を置いている場所ではない地域やそこにいる人の価値観を学んで体験することで、自身の価値観や思いを内省すること、フィールドに身を投じて五感を研ぎ澄ますことで、自身の感情と向き合って新しい自分に気づくことを期待しているそうです。
関連記事
熱海で「越境学習」のシンポジウム 企業担当者や地域企業が研修成果を報告
1月に行われた企業研修には、熱海市外から7社11人が参加。人事部、新規事業企画部、技術部など、業種も職種もさまざまなメンバーが集まってプログラムを受講しました。
プログラムの冒頭、machimoriの市来広一郎社長がこれまで同社が行ってきたまちづくりの取り組みと街の変化を説明。地域課題を解決するための視点について解説しました。フィールドワークの街歩きで、ただ街の様子を眺めるのではなく、得た情報を多様な視点をもって仮説設定することの重要さを伝えました。
まちづくりの取り組みや街の変遷を説明する市来さん
その後、実際に熱海の街に出てメインストリートの熱海銀座商店街、商店街の路地裏を街の変遷などを聞きながら街歩き。昨年オープンした「Himono Dining かまなり」で昼食を取りながら意見交換と交流を図りました。
街歩きで参加者に熱海の街の様子を説明する市来さん
昼食を取りながら意見交換する参加者
「GeNSEn」の研修の大切な点が「多様な視点を持つ」ことですが、自分が立てた仮説を検証するために欠かせないアクションと言えます。そのために研修で組み込まれているプログラムが「インタビュー調査」です。同社があらかじめ選んだ地域の事業者やまちづくりに関わる住民に対して、街の現状や感じていることなどを質問する時間が用意されています。この日も、長く地域活動を続ける事業者、熱海への移住者、移住支援を行う事業者が研修参加者の質問に丁寧に答えていました。
地域の事業者にインタビューを行う参加者
研修は、フィールドワークやインタービュー調査などから得た視点を元に、各自が仮説を設定して解決策を検討。グループ内で共有した後、プレゼンテーションを実施してフィードバックを受けるという流れで進行します。研修では、地域課題解決について考えながら、問題解決のための思考方法を学んでいきます。
今回、実際の研修参加者に感想を聞きました。金融・公共向けのITコンサルティング事業を展開する「サインポスト」(東京都中央区)で人事を担当する杉浦基紀さんです。
――受講のきっかけ、目的を教えてください。
昨年参加した人事関係のウェブセミナーで市来さんが講師をしていたことが、研修を知ったきっかけです。熱海の地域課題解決の考え方が、当社の掲げる「社会に新しい価値を創造する」という理念に合っていると考えました。今後、社内の若い社員にも研修を受講してもらって人材育成とイノベーションに生かしたいという目的があります。
――実際に受講してみて、いかがでしたか?
座学、フィールドワーク、地域の人へのインタビュー、それぞれのパートで熱海に対する見方に変化があり、多面的なものの捉え方ができました。今回の参加者は、さまざまな事業をしている会社の人たちだったということもあり、多様な視点が勉強になりました。
――熱海で企業研修を行う意義を、どんなところに感じましたか?
私自身、大学のゼミ合宿で熱海に来たことがありました。松下幸之助さんの「熱海会談」になぞらえて、会社で重要なことを議論する時には熱海を選んでいます。熱海は昔から縁のある場所です。課題先進地といわれる熱海での体験が、日本全体の社会課題解決の礎になると思っています。
最後に、machimoriで研修を担当する佐々木梨華さんにも話を聞きました。
――研修を通して期待したいことを教えてください。
参加企業にとって、観光としてだけでなく学びの場として来てもらうことで、熱海に対して新しい価値を感じてもらえると考えます。研修を通して、まちづくりに新しい視点で捉えてくれることを期待しています。研修後も、副業や実証実験への協力などでつながっている参加者もいます。地域にとっても、熱海外の人と交流することが学びになっていると実感しています。
社会共創事業「GeNSEn」