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【熱海でワーケーション vol.7】 「音楽×ワーケーション」で企業研修プログラムを提供する「123MUSIC」の取り組み

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 熱海が現在、特に力を入れているのが「ワーケーション」です。聞き慣れた言葉になってきましたが、ワーケーションとはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。コロナ禍を挟んでも、この数年は順調に発展を続ける観光地としての熱海が、なぜ今、ワーケーションに力を入れているのでしょうか? 数回に分けて、熱海でのワーケーションの動きやワーケーション施設を紹介していきます。

 これまでに、熱海の特徴的なワーケーション施設として、アート作品に触れられる「キュレーションホテル桃山雅苑(ももやまがえん)」、充実した設備を備えるリゾートホテル「熱海パールスターホテル」などをリポートしました。今回は、土石流災害からの復興を目指す伊豆山地区にある宿泊施設併設のカフェバー「123MUSIC(イズサンミュージック)」のワーケーションへの取り組みを紹介します。

これまでの記事

特集【熱海でワーケーション vol.1~6】

伊豆山神社の参道沿い、静かにたたずむ「123MUSIC」

 「123MUSIC」は2023年10月6日、伊豆山神社参道沿いにオープンしました。伊豆山神社は、伊豆山港にほど近い「走り湯」から神社の本殿まで続く837段の階段が参道になっており、123MUSICがあるのは国道135号から上った参道の中腹辺りにあります。

 参道を上ると、木々に覆われた約1000平方メートルの土地に2階建ての建物と、今年4月に完成したばかりの段々状の野外ステージが現れます。参道は、神社や走り湯を訪れた観光客が行き来し、立てかけられた「cafe」の看板を見て、疲れた体を休めようと立ち寄る人の姿も見られます。

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伊豆山神社参道沿いにある「123MUSIC」

店主のボイストレーナー・田中直人さん「音楽で地域を元気に」

 「123MUSIC」を経営するのは、「たーなー先生」の愛称で呼ばれているボイストレーナー・田中直人さん。田中さんは30年ほど前から都内を中心にボイストレーナーや音楽プロデューサーとして活動。これまでに延べ3万人以上を教えてきたそうです。コロナ禍でオンラインが主流になったことで移住を決意。2020年7月、以前からよく訪れていたという熱海に移住しました。

オンラインでボイストレーニングを行う田中さん

 移住後もオンラインでボイストレーニングを続けてきた田中さん。アーティストのプロデュースや楽曲提供を行ってきたこともあり、自然に囲まれた熱海で若いアーティストが音楽に浸り、その創作活動をサポートできる環境を作りたいと、伊豆山にある元旅館の建物を買い取ってリノベーション。音楽とワインをテーマにした「泊まれる」カフェバー「123MUSIC」をオープンしました。1階は音楽機材やグランドピアノなどを置いたカフェスペース、2階には5部屋の客室を備え、それぞれから、相模灘を望むことができます。

客室から望む相模灘と初島

 2021年に発生した土石流災害で被災した伊豆山を元気にしたいという思いが強かったという田中さんは、店を拠点に伊豆山に人が集まるさまざまな取り組みを続けています。市内の人気ワインバー「Le palais あたみバール」のソムリエ・宮野淳美さんと組んで定期的に「ワイン会」を開いたり、地元の生産者とジビエや魚介を使ったグルメイベントを開いたりと、ユニークな企画で人を呼び込んでいます。

 今年4月に田中さんが企画して初開催した「熱海カラオケグランプリ」の予選会場としても同施設を活用。8月3日に開催した「熱海・伊豆山あいぞめフェスティバル」のメインイベントでも、同施設の野外ステージを使い、アーティストや地元ダンスグループが歌や踊りを披露しました。住民や観光客が集う場所になっています。

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野外ステージを使ったイベントには人々が集う

「音楽×ワーケーション」の企業研修プログラムへの可能性

 若いアーティストの創作活動の場所を想定して開業した123MUSICですが、現在の利用状況について、田中さんは「音楽関係者や若手アーティストが合宿やワーケーションなどで長期利用することもあります。音楽機材や設備も整えているので、アーティストとファンとの交流イベントやライブでも利用いただいています」とのこと。

 さらに、最近ではボイストレーニングのワークショップを企業研修のプログラムとして提供することも増えているそうです。「魅力的なスピーチやプレゼンをするためには、声の出し方が大切。これまでに一般企業だけでなく、弁護士や警察からも依頼がありました」と田中さん。「一方で、1日のトレーニングだけでは次の日には声が戻ってしまうので、継続してトレーニングすることが重要。数日かけてトレーニングすることで高い効果を感じてほしい」とも。

ボイストレーニングを使った企業研修の様子

 今回、123MUSICを利用していたのは、ビジネスプラットフォーム「デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)」の会員で、普段は都内の企業などで新規事業やDXなどを担当するメンバー。3カ月のリーダーシッププログラムの一環で、123MUSICではそのプログラムの最終過程を1泊2日のワーケーションで過ごすということでした。

 DBICが123MUSICを利用するのは8回目。123MUSICをプログラム実施の場所に選ぶ理由について、同団体の渋谷健さんは「参加者はセルフプロモーションビデオをアウトプットするのですが、自分の声を聞くことが苦手な人が多い。伝えたいことを自分の声で表現することについて、体感的に理解してもらうため、たーなー先生のボイストレーニングを活用しています」と話します。

 参加者は、肩甲骨の可動域を広くするストレッチ、深い息をする呼吸法、音域を広くする発声などを、実践練習を通して田中さんに学びました。録音したトレーニング前後の自分の声を聞き比べた参加者からは「声質が明らかに変わった」「声が通るようになった」などの声が上がっていました。

 田中さんは「今後、楽器や合唱を取り入れた企業向け研修プログラムの開発を計画しています。未経験でもチームで一緒に取り組むことで絆が深まり、できた時の達成感を味わうことができます。チームトレーニングに適したワーケーションプログラムを提供していきたい」と話します。

参加者に発声の指導をする田中さん

熱海・伊豆山でワーケーションを

 熱海・伊豆山でワーケーションをする意義について、DBICの渋谷さんは「設備や環境など全てがここで完結している点です。まずは東京からも近く、アクセス性が良いこと。自然の中にあり、大きな声を出しても許されるような環境にあるためプログラムに集中できます。宿泊施設という箱もあるため、アウトドアとは違い安心感があることも使いやすい点です」と話します。「出前で注文する地元魚屋の美味しい刺し身は定番です。つまみながら遅い時間まで参加者同士が対話することも貴重な時間になっています。近くには浜浴場があり、リフレッシュするために毎回利用しています。朝は神社まで参道を散歩して気持ちをリセットできることも良いですね」とも。

研修後の交流の様子

 田中さんは「声の良し悪しは呼吸が9割と言われています。都会の会議室ではなく、森に囲まれていて、いつでも新鮮な空気を吸える環境が伊豆山にはあります。景色も良く、リフレッシュしながら取り組むことでトレーニング効果も高まるはず。観光だけではない、熱海の楽しみ方を伊豆山で体感してほしい」と話します。

「123MUSIC」

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