熱海に3月6日、「キュレーションホテル」3施設が同時グランドオープンする。宿泊施設の開業が続く熱海で、「伝統建築とアートを滞在しながら体感する新しいコンセプトの宿泊施設」となる。経営はザ・キュレーションズ(熱海市桃山町)。
開業するのは「桃乃八庵(とうのやあん)」「須藤水園(すとうすいえん)」「桃山雅苑(ももやまがえん)」の3施設で、いずれも市内の桃山地区、東山地区に位置する。住所は非公開。すでにプレオープンの形で関係者らが宿泊してトライアル営業を行っており、準備が整ったことから、同時グランドオープンを迎える。
一般的に「キュレーション」とは、美術館や図書館の学芸員や管理者を意味する「キュレーター」が語源とされる。キュレーターが展示物を整理して展示するのと同様に、必要な情報を整理し、新しい価値を持たせて共有するという意味で使われる。キュレーションホテルは、「日本の伝統建築素材、伝統工芸、アートをホテルという場を通じて還流させ、地域のアーツアンドクラフツツーリズムの核となる施設」として位置付ける。3施設共、古民家や元保養所、元旅館別館の伝統建築を生かしながらリノベーションし、館内には「目利きが集めた」という伝統工芸品や現代アート作品などを陳列。「革新的なデザインを施し、建物や作品に新たな価値を加えて再生」している。
キュレーションホテル協会代表理事で、ザ・キュレーションズの澤山乃莉子取締役は、「キュレーションホテルの原型はイギリスで、伝統やアートを生かした地域密着のホテルが存在する。実際にロンドンでの生活と仕事でそれに触れた。その後、熱海で生活する中で、熱海には素晴らしい日本建築が多くあり、同様のモデルが実現できると考えた」と経緯を説明する。新潟県出身の澤山さんは、国際線の客室乗務員やホテルの開業、マネジメントのコンサルティングの仕事を国内外で行ってきた経歴を持つ。ロンドンで建築やデザインを学んだ後、ロンドンでインテリアデザインの会社を立ち上げるなどした。「これまでの経験から、ホテルとデザインを掛け合わせたビジネスモデルに行き着いたのは自然な流れ」と話す。
「桃乃八庵」は築88年の元旅館別館で、朽ちて解体寸前だった建物を改装。「須藤水園」も築87年の古民家を、伝統建築を生かしながら改修して宿泊施設として蘇らせた。いずれも定員6人で、1棟貸し=1泊20万円~。「桃山雅苑」は築40年を超える元保養所を、静岡市のきこりが切り出す間伐材を多用してリノベーション。今では有名なアーティストの若かりし頃の作品、ヨーロッパに流出した日本美術の買い戻し品や伝統工芸品を至るところに展示する。全4室と共有のリビングダイニングキッチン付き。1泊2人=8万円~、1棟貸し=1泊32万円~。
澤山さんは「宿泊費は決して安くないが、建築物、伝統工芸品、アートの保存・維持費や、若いアーティストの育成にも還流されていく。宿泊した人たちがサポーターとして、情報を発信して伝統を未来につなぐことにも貢献していただける。伝統建築も、人が使うことでその価値が生きてくる」と話す。「食事は地元の鮮魚店やベーカリー店からケータリングしてもらったり、地元の食材を使った飲食店を案内したりして、地域にも根ざしていきたい。全国にもキュレーションホテルのモデルを広げていけたら」と期待を込める。