元パタゴニア日本支社長で社会活動家の辻井隆行さんの講演が5月26日、エムズ熱海ビル(熱海市渚町)で開かれた。主催は熱海の環境まちづくり会社「未来創造部」(同)。
「元パタゴニア日本支社長・辻井隆行さんに聴く パタゴニアがカッコイイ真の理由~企業は世界を変えられるのか?~」というテーマで開催された同セミナー。環境問題に取り組む未来創造部の枝廣淳子社長と辻井さんとの縁で、熱海での開催が実現した。定員いっぱいの16人が耳を傾け、オンラインでも約60人が視聴した。
枝廣さんは「パタゴニアは環境問題に対しても企業活動としてもどのような哲学や考え方を持って取り組んでいるのか、従業員にどのような教育をしているか。辻井さんはパタゴニアからどのような影響を受けて、現在活動しているのか参考にしてもらえれば」とセミナーの趣旨を説明した。
辻井さんは現在、社会活動家・ソーシャルビジネスコンサルタントとして活動。パタゴニアには店のパートタイムスタッフとして入社し、2009(平成21)年から約10年間にわたり日本支社長を務めた。
「世界を旅すると、人が便利さや豊かさを追求すれば特に途上国などにしわ寄せがいくという問題を感じた」と辻井さん。パタゴニアでは、ミッションに対する一貫性や改善スピードの早さなど、学ぶことが多かったという。アパレル業界には、製造現場の労働問題や環境負荷を減らす原材料の調達、年間3000億着ともいわれる服の廃棄問題など抱える課題が山積みだが、生産者の労働改善のために、同社は世界のアパレル企業ではいち早く、フェアトレードを導入したという。
辻井さんは「正直さと誠実さ、スピード感で、失敗から学び改善する大切さを実感した。ミッションに一貫性があるから、変化を起こすことができる会社だった」と振り返った。
時には、「政治に対して声を上げるのも必要なこと」だという。社会活動家として社会問題に取り組む中で辻井さんは、現在、長崎県の「石木ダムの建設問題」で積極的に活動。自然豊かな場所にダムを建設することに対し問題を投げ掛けている。「ダム建設にしても、起きている社会問題に対して、分からないまま進められているのが問題。まずは正しい情報を知ることが大切。当事者らがそれを受けて、未来に対してどう判断するか」と辻井さん。パタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナードの言葉「問題の一部になるか、解決の一部になるか」を引き、環境・社会問題に対してどのような行動を取るかの重要性を説いた。
同社は、地域との付き合い方も大切にしてきたという。辻井さんは「直営店の出店では、その地域の伝統的な建物との調和や地域での在り方を大切にしている」と説明した。「地域を大切にできて初めて、環境問題に関わることができる」とも。「矛盾と向き合うこともある仕事だったが、ミッションやビジョンと照らし合わせた上で、問題に対してどう判断するのかが大切だと感じた」と言葉に力を込めた。
講演を前に辻井さんは、未来創造部が行なっている「プラキャッチプロジェクト」の現場も見学し、熱海での環境問題への取り組みにも興味を示した。
未来創造部は毎月、「未来創造サロン」と銘打ったセミナーを開く。次の開催は6月30日。テーマは「地域と企業の良い連携をどう作るか」を予定する。