無人書店「ひみつの本屋」(熱海市銀座町)が6月1日、熱海銀座商店街の路地裏にオープンした。
休館している映画館「ロマンス座」のチケット売り場があった約3.5坪のスペースに開業した同店。経営は、沼津市出身で都内のIT会社に勤務する渡邉沙絵子さんと、同じく都内の設計事務所に勤務する田坂創一さんの2人で、クラウドファンディングを使っての資金集めを経て、構想から約10カ月かけて開業にこぎ着けた。
同店は、入り口が施錠された無人の書店。利用者には事前にウェブサイトで入場チケットを購入してもらう。近隣の協力店で書店の鍵を借りて店に入ると、本を借りたり買ったりできる。ネットで本を買う人が増えている現在、「本との偶然の出合いが生まれるような新しいスタイルの書店を作りたい」という渡邉さんの企画を田坂さんと共に事業化した。2人は、普段は都内で仕事をしており、熱海に常駐できないことから、無人書店という事業形態にたどり着いた。
4月にクラウドファンディングを立ち上げると、多くの反響があったという。「知人からの応援だけでなく、ツイッターで拡散されて、本が好きな人など多くの人から応援や楽しみだという声をもらった。鍵が掛かっている本屋というストーリー性に共感してもらえたと思う」と渡邉さん。田坂さんは「クラウドファンディングに載せた内容は、ひみつの本屋のストーリーのみだったにもかかわらず、興味を持ってくれた人が一定数いたので、手応えを感じた」と話す。
1日にオープンすると、1日当たり3~4人の利用者がいるという。渡邉さんは「まだ大きく告知をしてなく、クラウドファンディングのリターンのチケットもこれから発送するところ。旅行者や周辺のホテル関係者が利用しているのでは」と話す。
店内には、小説やエッセー、アート系、児童書など約1000冊の本をそろえ、絶版になった貴重な本も置く。渡邉さんは「店外に持ち出してよい仕組みなので、普段は自分では買わないような本とも出合ってもらえれば。本は定期的に入れ替えていく。地元のお客さまもワクワクできるような場所にしていきたい」と意気込む。
田坂さんは「商店街から一本奥に入った場所で、隣には老舗の喫茶店があり、元々は映画館だった建物、という世界観を大切に、街に奥行きを持たせることができるような店にしたい。鍵を借りなければならないという、あえて不便なところに価値を感じてもらえれば。ワクワク感を提供していく一方で、お客さま自身でも店や町を通して刺激や新しい発見を生み出してもらいたい」と期待を寄せる。
現在、鍵を受け取れる場所は、カフェ「QUARTO(クアルト)」、ゲストハウス「MARUYA」、ワインバル「Le palais あたみバール」、スナック「あた美」。今後、受け取り場所を増やす予定としている。