「佐野純平講演会 できる!できる!!できる!!!」が11月17日、仲道公民館(熱海市伊豆山)で開かれた。主催はNPO法人「テンカラセン」(同)。
地域住民ら約30人が集まって純平さんの話に耳を傾けた(関連画像5枚)
土石流で被災した伊豆山に活力を与えるために企画したという同講演会。熱海在住で車椅子で生活する佐野純平さんを招いた。現在28歳の純平さんは、熱海中学校在学中の14歳の時に脳腫瘍が判明。手術や抗がん剤治療を受けて回復するが、5年前に脳梗塞を発症した。体にまひが残り、車椅子で日常を送っている。
講演会で純平さんは「1万人に1人以下と言われる珍しい脳腫瘍、いわゆるがんの病気だった。野球をやっていて左手に違和感があって気づいた。抗がん剤や放射線治療で治ったが、2018(平成30)年には脳梗塞になった。右半身がまひして手足はぶらぶら、歩けない、声も出ない状態だった」と振り返る。約半年間の入院生活では当初、体の痛みや不安で眠れない日々が続いたという。入院して3カ月たつ頃には気持ちも安定し、退院後の生活を見据えたリハビリを開始。「最初は何もできない大きな赤ちゃんのような自分だったが、多くの人に支えられて退院できた」と話す。
退院後、当初は生活や今後の仕事を不安に感じることも多かったという。「車椅子で生活するようになって、最初はできない理由を探していた。でも、東京オリンピックの聖火ランナーをできたのは、大変だったがとても良い経験になった。野球部だった縁もあり、プロ野球での始球式もできた」と振り返る。
「9月に結婚して来年には子どもも生まれる。昨年、初めて独り暮らしに挑戦したことが経験として大きかった。無理だと思っても一歩踏み出す勇気が大事だと学んだ」と純平さん。「来年は子育てに挑戦して車椅子ユーザーに勇気を与えることができれば」と力を込める。詰めかけた約30人の来場者の中には涙する人もいて、純平さんに大きな拍手が飛んだ。
講演に駆けつけた純平さんの父・浩一さんは「本人は淡々と話していたが、実際は壮絶な出来事もあった。生きているだけで幸せだと思える」と話す。「災害の後、純平さんが被災地に来てくれたことで、その後も被災住民から純平さんと話がしたいという声が上がっていた。このような機会が持てて良かった」と公演会を企画した「熱海伊豆山子ども食堂」代表の田窪由岐子さん。テンカラセン代表の高橋一美さんは「純平さんの話から何か感じてもらえたことがあればうれしい」と話した。