熱海が現在、特に力を入れているのが「ワーケーション」です。聞き慣れた言葉になってきましたが、ワーケーションとは、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。コロナ禍を挟んでも、この数年は順調に発展を続ける観光地としての熱海が、なぜ今、ワーケーションに力を入れているのでしょうか? 数回に分けて、熱海でのワーケーションの動きやワーケーション施設を紹介していきます。
これまでに、熱海の特徴的なワーケーション施設として、アート作品に触れられる「キュレーションホテル桃山雅苑(ももやまがえん)」、ベンチャー・スタートアップ企業が頻繁に利用している宿泊施設「熱海の隠れ里」などをリポートしました。今回は、旧網代小学校を活用した交流拠点「AJIRO MUSUBI(あじろむすび)」でのワーケーションを紹介します。
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「AJIRO MUSUBI」は、2021年3月に廃校になった網代小学校の建物の一部を一般社団法人「あじろ家守舎」が熱海市から借り受けて運営する交流施設です。1階は、地域内外の人が集まる交流スペースとして、カフェや小商い屋台、図書コーナーなどを配置。毎週のようにイベントが開かれ、かつて学校に通う子どもたちでにぎやかだった頃を連想させるかのように、催しを楽しむ人たちの声が館内に響いています。
旧網代小学校をリノベーションした建物1階の交流スペース
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2階は、教室だった部屋にはレンタルオフィスを、図書室だった部屋にはコワーキングスペースを、それぞれ設けています。レンタルオフィススペース8室のうち3室は、地元や都内の事業者などが借りており、残りの部屋も何社かが入居を検討しているそうです。
「南熱海みらい共創センター」と呼ぶ2階のエリアについて、「あじろ家守舎」代表理事の山崎明洋さんは「地元と地域外の事業者とが連携し、新たな事業や産業が生まれていく場所にしたい」と期待を込めて話します。
「AJIRO MUSUBI」を運営する「あじろ家守舎」の山崎さん
白を基調に明るい雰囲気に仕上げたコワーキングスペースには、広いテーブル席のほか、オンライン会議に適した個室席も備えています。利用料金は、会員=月額5,500円、ドロップイン=1日1,650円と、手頃な価格に設定しています。施設内には、団体で利用できる研修ルームと会議室もあります。山崎さんによると、最近では、ワーケーションの一環として都内企業の団体利用や個人利用が増えているそうです。
都内企業に勤める人のワーケーション利用も増えているという
白を基調にした明るい雰囲気のコワーキングスペース
山崎さんは「熱海は都内からのアクセス性が良いことが利点の一つ。温泉や自然環境にも恵まれていてリラックスできるエリアです。網代は熱海の繁華街から離れているので、さらに静かで仕事にも集中できるでしょう。街を散策したり、ローカルな店で食事を楽しんだりして、網代の魅力を感じてほしい」と話します。
施設内にある会議室でグループミーティングも可能
今回、山崎さんには、網代のアクティビティーやグルメ情報を紹介してもらいました。グループでコミュニケーションを図ることも、1人でゆっくり過ごすこともできる場所が網代にはたくさんあるそうです。
まず網代を満喫するアクティビティーとしては、「AJIRO MUSUBI」から徒歩数分の場所に店を構える貸しボート店「亮知丸」で船と釣り道具を借りて楽しむフィッシング。船舶免許が必要なボートだけでなく、免許が要らない手こぎボートもあるため、初心者でも利用しやすいそうです。釣りざおの貸し出しのほか、釣り餌や氷なども販売しているので、手ぶらで気軽に釣りを楽しむことができます。山崎さんは「海辺の風景を眺めながらの釣りと、仕事の一部を自然の中で過ごすという『釣りとワーケーション』の組み合わせは、心地よい働き方の選択肢として注目してほしい」と話します。
網代港で営業する貸しボート「亮知丸」
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「港町・網代ならではのグルメも楽しんでほしい」と話す山崎さん。「AJIRO MUSUBI」1階のカフェ「むすび食堂」では、カフェ利用だけでなく地元の食材を使った食事を楽しむこともできます。網代漁港で水揚げされた魚介や伊豆の農家から届く野菜を使ったプレートランチが看板メニュー。網代のレモンで作ったレモネードや静岡茶のラテなど、地域の特産品を生かしたドリンクも提供しています。小学校の食堂だった場所を改装したこともあり、店内ではどこか懐かしい雰囲気を感じることもできます。
網代港で水揚げされた魚介を使った料理
カフェには小学校だった面影も
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「AJIRO MUSUBI」から徒歩3分ほどの場所にあるのが、地元住民にも観光客にも人気という「BUSHI MESHI(ブシメシ)」です。老舗削り節製造業「丸藤」が運営する飲食店で、かつお節ご飯や刺し身などを提供しています。客の目の前で削ったかつお節をご飯の上に山盛りにのせて提供する「ほやほや削りごはん」が一押しメニュー。山崎さんは「だしを超えた削り節のおいしさを味わってほしい」と話します。
港町の裏路地にたたずむ「BUSHI MESHI」
目の前で削ったかつお節をのせたご飯を提供
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網代駅近くに店を構える「キッチンますます」は、2023年11月にオープンした網代の中では新しい方の居酒屋ですが、既に地元住民や別荘居住者に人気の店になっているそうです。「30年以上国内外で経験を積んだ料理人の店主が作るおいしい料理だけでなく、自然と交流が生まれるような心温まる店」と山崎さん。ローカルな交流を楽しむのもワーケーションの魅力と言えるでしょう。
ローカルな交流を楽しめる「キッチンますます」
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網代で温泉付きの旅館に宿泊するのもお勧めですが、山崎さんがあえて紹介するのは、「HOTEL 2YL ATAMI」。後継者のいなくなったペンションを20代の若いメンバーが借り受けてリノベーション。2023年6月にオープンしたのが「HOTEL 2YL ATAMI」です。「若者を中心に、クリエーティブで自由な旅行スタイルを楽しむ人にはピッタリ」と山崎さん。「元々の建物の味を大切にしながらも、新しい感性と発想でリノベーションしています。現代の心地よさを追求した空間と相模灘を一望できる景色が人気」とのこと。SNSで話題になって雑誌にも取り上げられるなどして、ワーケーションの一人旅やグループ旅行で利用する客も多いそうです。
センスある客室が特徴の「HOTEL 2YL ATAMI」
読書や仕事がはかどる静かな施設
屋上からの景色にほっと一息つくことも
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最後に山崎さんがお薦めするのは、絶景のいやしスポット「朝日山公園」。「AJIRO MUSUBI」からは、坂道を上ること20分ほど。その名の通り、海に昇る朝日を眺められるスポットとして知られ、特に元旦には地元住民が初日の出を拝みに集まります。高台にある公園からは、相模灘や房総半島まで一望できます。山崎さんは「ゆったりと自然を感じながらリフレッシュすることができます。網代の自然美を堪能しに足を運んでほしい」と話します。
「朝日山公園」を散策して気分をリフレッシュ
充実した設備を整えた「AJIRO MUSUBI」をワーケーションの拠点にして、自然やグルメ、アクティビティーを楽しみながら網代の魅力を感じられるでしょう。山崎さんは「網代には他にも魅力あるスポットがたくさんあるので、お越しいただいた際には紹介します」と話します。
「AJIRO MUSUBI」