熱海銀座商店街の路地裏で書店「ひみつの本屋」(熱海市銀座町)を開業しようと、「ひみつの合同会社」(銀座町)が4月5日、クラウドファンディング(CF)を始めた。
「ひみつの本屋」は、施錠した無人の書店で本を借り、気に入った本は購入できるという書店。CFで開業資金の一部を調達し、5月上旬の開業を目指す。立ち上げたのは、沼津市出身で都内のIT会社に勤務する渡邉沙絵子さんと、都内の設計事務所に勤務する田坂創一さん。出店場所は、熱海銀座商店街の路地裏で、休館した映画館「ロマンス座」のチケット売り場があった約3.5坪のスペース。CFで集める目標金額は300万円で、4月29日まで支援を受け付ける。渡邉さんは「新しいスタイルの書店なので、CFを通して多くの人に知ってもらいたい」と話す。
子どもの頃から本が大好きだったという渡邉さん。本を読み過ぎて他のことに手が付かず、「親から何度も読書禁止令が出たほどだった」と笑顔で話す。学生時代は書店や大学の書庫でアルバイトをしていたという。その後、会社員として働いていた時に熱海でまちづくりの研修会に参加。その研修会でのテーマが、閉館した映画館「ロマンス座」の活用だった。渡邉さんは「宿に本屋を併設するという企画を提案した。結果として、その時点で本屋の併設はできなかったが、『ロマンス座カド』という宿泊施設が実現した」という。
その後、シェア書店「西日暮里BOOK APARTMENT」(東京都荒川区)で棚を借り、本の販売を始めた。渡邉さんは、書店を経営することについて、「ネットで本を買うことが主流になっている。便利だが、本屋のように『本との偶然の出合い』が無い。そういう場所を残したかった。ただ、昔ながらの経営スタイルでは負けてしまうので、やり方を工夫する必要があった」と話す。そんな折に、「ロマンス座カドの企画を覚えていた人から、この場所が物件化したタイミングで真っ先に連絡があった」と言い、出店を即決したという。ロマンス座カドの設計を担当し、西日暮里BOOK APARTMENTの管理者でもあった田坂さんに相談したところ意気投合し、共同経営することになった。田坂さんは「企画の時から話を聞いていたので、相談を受けた際に迷うことなく乗っかってみようと即断した。本との偶然の出合いを提供できる本屋にしたいと考えた」と話す。
「ひみつの本屋」は、まずウェブサイトで入場チケットを購入。チケットは1日利用が500円、1カ月利用が2,000円。その後、近隣の協力店で書店の鍵を借りて入店し、気に入った本を借りるという仕組み。本を購入することもできる。本のジャンルは小説、エッセー、旅行関係、デザイン、自己啓発、児童書、絵本などが中心で、約1500冊の取りそろえを目指す。渡邉さんは「熱海は海辺や川沿いなどの屋外、温泉の休憩所、宿泊施設など、読書をしたら気持ちいい場所がたくさんある。本を通じて街と出合ってほしい。街を通じて本と出合ってほしい。あえて街の協力店で鍵を借りることで、店とも出合うことができる」と期待を込める。
CFのリターンは、同店の1日利用チケット、ロマンス座カドへの宿泊とのセットチケット、「一緒に本屋をやる」チケットなど。集まった資金は、リターンに充当するほか、本の購入費や店の工事費の一部に使う。クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で協力を呼び掛ける。