熱海・伊豆山にコミュニティーカフェ「あいぞめ珈琲（コーヒー）店」（熱海市伊豆山）が4月15日、グランドオープンする。経営は、伊豆山土石流災害の復興ボランティア団体「テンカラセン」。

厚切りフレンチトーストとコーヒーのセット

　テンカラセンは、昨年7月3日に発生した土石流災害を受けて住民らが10月に立ち上げたボランティア団体。災害の直後から、地域の高齢者の生活支援などの活動を重ねた。同団体の代表で自身が経営する弁当店も被災した高橋一美さんは「元々この地域は高齢化や独居化が進んでいたが、災害でさらに住民同士が疎遠になってしまう。日々、顔を合わせる場所が必要」として、人がつながる拠点を作ろうと決意した。

　伊豆山には、喫茶店など住民が日頃立ち寄ったり、観光客が休憩したりする場所がなかった。地域住民が使う浴場があり、伊豆山神社の参道につながる場所にある「浜会館」に、海を望める空きスペースがあることに目を付け、コミュニティースペース開業の準備を進めた。

　開業に当たって、クラウドファンディングを立ち上げて資金を募り、480万円以上の寄付を集めた。内装工事に着手し、このほど完成にこぎ着けた。「まずは地域の人たちに見てもらいたい」と、4月10日・11日には、住民や関係者を集めてお披露目をした。

　店名の「あいぞめ珈琲店」には、「人と人が出会い、つながる場所にしたい」という思いを込めたという。災害で損傷した逢初（あいぞめ）橋は、地域の象徴とも言える場所。源頼朝と北条政子が出会った場所とも言い伝えられている。高橋さんは「地域の人が顔を合わせ、住民と観光客が出会い、未来につながっていける役割になれば」と期待を込める。

　店内は、海を望むカウンター席やソファ席など約20席。元々のコンクリート造りを生かし、木製のテーブルや観葉植物を飾って落ち着いた雰囲気に仕上げた。ソファなど一部の家具は、昨年11月に閉館した旧ホテルニューアカオ館から寄贈を受けた。ACAO SPA ＆ RESORTは、災害直後から伊豆山のボランティア活動に協力してきたため、同店の思いに共感して家具の提供を引き受けたという。

　店内の壁には、メッセージ入りの木製コースターを貼った。同団体は、昨年の大みそかに伊豆山神社で追悼のキャンドルイベントを開催し、来場者からメッセージを書いたコースターを約500枚集めていた。地元の子どもたちの協力で壁に貼ったコースターには、「伊豆山のみんなが楽しくすごせますように」「大好きな伊豆山に来られてうれしい。応援しています」などと書かれている。今後、同店の客も記入して貼ることができるようにする。

　ドリンクメニューは、伊豆山在住の原田みちよさんが熱海市内で営む「カモメ珈琲豆店」（中央町）が自家焙煎（ばいせん）する豆を使った「本日のあいぞめコーヒー」（500円）、地元の丹那牛乳を使った「カフェオレ」（550円）のほか、熱海ビールや伊豆サイダーなどご当地ドリンクも置く。コーヒーは、注文を受けてから豆をひいて提供することにこだわる。「昔ながらの喫茶店らしさを残したい」と、11枚つづりのコーヒーチケットも用意した。

　フードメニューは、喫茶店の昔ながらの定番メニューであるフレンチトーストを提供する。注文を受けて焼く「厚切り！あいぞめフレンチトースト」（750円）、「生ハムとクリームチーズのあいぞめフレンチトースト」、「あいぞめフレンチトースト季節のジャム添え」（以上850円）のほか、市内の人気パン店「パン樹 久遠」（田原本町）から仕入れる総菜パンや食パン、丹那牛乳を使ったソフトクリームも提供する。

　このほか、「つながるチケット」（1枚500円）を販売。同チケットを購入すると、他の来店客が金券として利用でき、店にメッセージを残すことができる。高橋さんは「人がつながり、伊豆山への思いを共有できる仕組みになれば」と期待を込める。

　お披露目会には多くの関係者や地元住民が駆けつけた。地元の子どもたちが店内を駆け回ったり、高齢者が談笑したりする姿を見て、高橋さんは「最近の伊豆山では見られなかった光景。子どもの声も店内の雑音も、誰も気にしない、許しあえるような場所になっている。みんなが自然体でいられる『友達の家』のような場所でありたい」と目を細める。

　今後は、店内でオリジナルの伊豆山土産の販売や住民らが参加できるイベントも計画する。同団体副代表で店長を務める中野裕基さんは「住民と観光客が『また会いましたね』と会話を交わせるような店になれば。人がつながれる場所にしたい」と話す。高橋さんは「ゆっくりと焦らず、伊豆山の皆さんと一歩ずつ前に進んでいきたい」と話した。

　営業時間は10時～18時。