熱海のとんかつ店「あたみ 喜撰(きせん)」(熱海市中央町、TEL 0557-82-5954)が2月で営業を再開して3年を迎えた。先代が他界して一時は休業していた店を、妻と長女が再開にこぎ着け、60年以上の間、地域に愛されてきた味を守り続けている。
同店は初代・二宮佐太郎さんが糸川沿いの屋台で始めた老舗とんかつ店で、1954(昭和29)年に店を構えた。当時から地元の人や熱海を訪れる著名人に愛され繁盛してきた。その後、店を継いだ2代目の二宮良佐さんが2015(平成27)年にガンで他界し、一時は閉店。妻の由未子さんは「9年間の闘病生活の中で、最後は営業したり閉めたりしながらも、ソースの製法などを受け継いだ。かつサンドも私でも調理しやすいようにと、夫からアドバイスを受けながらレシピを引き継いだ」と当時を振り返る。休業後は店の存続は不確実なところがあったが、長女の長沢麻由子さんも手伝えるようになり、「とんかつ店としての営業は難しいが、当時から人気のあった『かつサンド』だけならできるだろう」と再開に踏み切ったという。2017(平成29)年の夏、知人らに徐々に提供し始め、2018(平成30)年2月、一般販売を再開した。
営業再開を聞きつけ予想以上の反響があったという。「初代や夫が店に立っていたころのなじみのお客さまが来てくれることも。周辺の店の方や地域の人たちが楽しみに買いに来てくれる。店も友人らが手伝ってくれて、周りの支えがあってやってこれた」と由未子さん。麻由子さんは「昔からのお客さまには100歳のおばあちゃんもいる。死ぬ時には喜撰のかつサンドが食べたいと言う方もいて、うれしくて涙が出る」と笑顔で話す。
現在は月に3~4日間だけ、数量も限定してテークアウト用の「かつサンド」(750円)、自家製の「とんかつソース」(大=750円、小=400円)を販売する。由未子さんは「肉は当時のもも肉からヒレ肉に変えて食べやすくなったが、製法やこだわりのソースはそのまま。技術は先代にはかなわないが、数量を限定している分、コンディションの良いものを提供できる。作り置きせず、作りたてをお渡ししている。当時の芸妓衆がおちょぼ口でも食べられるようにと、初代が工夫して薄いカツにしたと聞いている。甘めのソースとソテーした野菜を挟むのが昔から人気」と、こだわりを説明する。
今後について、由未子さんは「今は販売できる個数にも限りがある。4月以降はお客さまのニーズに合わせて、もう少しチャレンジしたいが、自分のできる範囲で続け、受け継いだ味を守っていけたら」と笑顔で話す。販売日はフェイスブックなどで知らせ、2日前までの予約を呼び掛ける。2月の販売日は15日、27日。受け渡しはおおむね9時~12時。