熱海市伊豆山で発生した土石流災害の影響で一時休業していた市内の観光施設や店舗が徐々に通常の営業を再開している。
土石流災害が発生した7月3日以降、熱海市全域に土砂災害警戒レベル5「緊急安全確保」が発令された。それにより、従業員や観光客の安全確保のため、市内を走る路線バスや一部の観光施設は休業。土石流により、湯河原方面との道路が寸断され、通勤や物流が困難な事業者は、営業時間の短縮や提供メニューを絞って営業を続けるなどしてきた。
その後、7日14時50分に伊豆山地区の一部を除き、警戒レベル3「高齢者等避難」に引き下げられたことで、運行を見合わせていた路線バスは一部の路線を除き運行を再開。8日9時からは、熱海ビーチラインが緊急車両と地域住民の車両に限定して利用を再開し、熱海と湯河原方面との分断が限定的に解消された。
MOA美術館(熱海市桃山町)は、一時的に避難者を受け入れ、駐車場を緊急車両の待機場所として提供した。8日まで休館していたが、9日に通常営業を再開。観光庭園「アカオハーブ&ローズガーデン」(上多賀)は9日まで休園したが、10日に営業を再開し、観光客を迎え入れる。
本社を伊豆山に置く洋菓子店「住吉屋」は、本社と工場は土石流の被害は免れたが、道路の寸断が原材料の調達や物流に影響を与えた。一時は休業せざるを得ない状況だったが、現在はメニューを限定して営業を再開し始めている。
自宅を流されながらも、営業を続ける事業者もいる。創業から50年を超える熱海駅前の「イワオ理容室」(春日町)。店主の齊藤巖さん・春美さん夫婦の伊豆山の自宅は3日の土石流で全壊した。土石流が発生した時間は店にいたため難を逃れることができたものの、3日午後と4日は臨時休業した。5日・6日は定休日だったが、営業再開には葛藤もあったという。春美さんは「最初は仕事する気分になれなかった。周りには亡くなった知り合いもいて、果たして営業してもいいものなのかどうか迷いがあった」と話す。それでも営業を再開したことについて、春美さんは「自分たちにも生活がある。それ以上に、臨時休業で予約日を変更してくれたお客さまもいて、それがきっかけで営業しようという気持ちになれた。土砂災害の知らせを聞いて、お客さま、同級生、親戚などから連絡があった。同業者からも、『頑張ってください』という励ましの電話ももらった。助けてくれることを本当にありがたく思い、励みになる」と力を込める。
熱海市内の経営者は、所属する消防団の活動で被災地周辺の交通整理や、青年会議所のボランティア活動として復旧作業に当たるなどしている経営者も少なくない。市内の宿泊事業者は「被災者の気持ちに寄り添いながら、今は復旧作業と自社の経営に並行して当たっている。苦しいが、現時点で予約のキャンセルは、旅行者の気持ちを考えれば致し方ないと思う。この状況でも熱海に来てくれている目の前のお客さまや、支援してくれている人たちに感謝しつつ、もっと楽しんでもらえる観光地・熱海を皆で作っていきたい」と話す。