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熱海・咲見町に新店続々 既存店も意欲、新たな発信拠点への期待も

飲食店を中心に出店が続く「咲見町一番街商店街」

飲食店を中心に出店が続く「咲見町一番街商店街」

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 熱海の「咲見町一番街商店街」で現在、新規出店が相次いでいる。

大川さんが所蔵する咲見町の昔の写真

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 熱海駅前の商店街を抜け熱海銀座商店街に向かう途中にある同商店街。熱海駅前平和通り商店街のアーケードを抜けてすぐのガソリンスタンドからラーメン店「yaya屋」がある交差点までの約400メートルに商店などが並ぶ。この数年、新規出店が相次いだが、昨年の春以降、新たな動きが目立つ。

 熱海銀座方面に大きく曲がるカーブ近くには昨年4月、「地魚料理・鮨(すし)佐々木」がオープン。店主は、大観荘の閉店した「寿司処(すしどころ) 花吹雪」で二番手を務めていた職人で、連日、カウンターが客で埋まる様子がうかがえる。

 「佐々木」近くには、同じく昨年4月に立ち飲みバー「Taketomi」もオープン。以前は「佐々木」の場所で和食店として営業していたが、移転して業態を変えバーにリニューアルした。

 今年に入ってからは、ガソリンスタンドから50メートルほど下がった右手に4月6日、キンメダイだしを使うラーメン店「ゴールデンアイ」がオープン。「Taketomi」近くには4月9日、ご当地グルメを集めた「熱海ミニ横丁」がオープンした。昨年3月にオープンした「熱海温泉毒饅頭(まんじゅう)の販売店が、地元の食材を使ったさまざまなメニューを提供する「横丁」としてリニューアル。付近には、昨年6月に移転オープンしたばかりの「海鮮市場 漁屋」や5月に開店3周年を迎える居酒屋「バルバルATAMI」もある。

 同商店街で創業50年の「瑞宝荘」と不動産業を営む渡辺慎太郎さんによると、「現時点で、商店街で賃貸できる物件は全て埋まっており、空き待ちの状態」という。渡辺さんは「熱海駅と銀座商店街やビーチへの導線にあるため、以前から一定の歩行者はいたが、そのまま通過してしまう人が多かった。ただ、ここ最近は新しい店ができたり、既存の店が新しいことを始めたりして、商店街の店で足を止める人が増えてきている」と説明する。

 既存店では、商店街の干物店「東海ひもの」や練り物店「山田屋」が、店舗を改装して立ち飲みができるカウンターを設置した。瑞宝荘でも週末を中心に、飲み歩きできるようにと店頭でビールなどアルコールの販売を始めている。「熱海ミニ横丁」も、焼き鳥や揚げ物など食べ歩きできるメニューを充実させ、商店街のにぎわいを作り出そうと工夫する。

 同商店街は、1950(昭和25)年に発生した熱海大火の被害を逃れた。熱海駅前や銀座町、渚町は大火の被害を受けた建物も多く、その後の復興で新しいビルが建てられた。咲見町は古い町並みがそのまま残ったが、1965(昭和40)年頃からの都市計画で道路が拡張されたことで、その頃に新しく建て替えられた建物が多いという。1968(昭和43)年に「咲見町一番街商店街」という名称となり、街路灯が整備されるなどして現在の原形となった。

 現在84歳で、咲見町の元町内会長で酒店を営んでいた大川清さんは「この辺りは、戦前から商店が多くあった。明治から大正時代には、小田原からの豆相(ずそう)人車鉄道が咲見町まで走っていて、熱海の拠点だったと聞いている」と話す。関東大震災の影響で軌道が寸断されたことで鉄道は廃止されたが、現在の「大江戸温泉物語あたみ」の前には、当時を伝える石碑が残されている。豆相人車鉄道は、ここから現在のセブン-イレブン熱海咲見町店の裏やさくらや旅館の前の細道を通って、小田原まで通じていたという。

 同じく元町内会長で、商店街で漬物店「岸商店」を経営する71歳の岸秀明社長は「咲見町一番街商店街の昔からの強みは、いろいろな業種の店があり何でもそろうことだった。どちらかというと地元客向けの店が多かったが、周辺には宿泊施設が多く、観光客で土産物店や飲食店も繁盛した」と当時を振り返る。商店街には、そば店「長舟」、中華料理店「壹番(いちばん)」など、地域に支えられて長く商売を続ける店も多い。

 岸さんは「咲見町は、駅から近く、温泉もあって眺めが良いという利点があった。いい旅館もたくさん立ち並んでにぎわっていたが、バブル崩壊以降、時代の変化にシフトできなかった」と話す。かつて商店街の周辺にあった「静観荘」「一ふじ旅館」「青嵐荘」「咲見荘」など多くの宿泊施設が姿を消しリゾートマンションに建て替わり、廃業した「南明ホテル」は大江戸温泉物語がリニューアルして経営している。

 商店街に恩恵を与えていた宿泊施設が減ったことの影響はあるが、建て替わってマンションになったことにはプラスの面もあるという。岸さんは「マンションの住民や別荘の利用者が、商店街の店を頻繁に利用してくれている。その人たちに選ばれる店になることが大事。3年後、10年後を見据えたまちづくりが必要」と話す。

 今後について、大川さんは「咲見町一番街商店街は、基盤もあってしっかり機能している。商店街を活性化するような新しい店もできている。若い人たちと一緒に町内会がサポートしていければ」と語り、岸さんは「他の商店街にはない強みを生かしながら、お客さまが求める商品を提供していけるかが重要。上質さと温かみのある接客がポイントになるのでは」と話す。

 「咲見町一番街商店街」の名称が誕生して半世紀。現在39歳で商店街の活性部会リーダーも務める渡辺さんは、これまでの商店街の歴史を大切にしながらも新たなチャレンジも模索する。「同商店街には、駅前や熱海銀座にあるような強い吸引力のある店があるわけではない。商店街がまとまって活動し、観光客に咲見町にも魅力的な店があることを知ってもらえるような取り組みをしていきたい」と意欲を見せる。

 明治時代には当時の人車鉄道の拠点となり、昭和のバブル期における熱海の盛衰を共にしてきた商店街に注目が集まる。

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