特集

【熱海 for BIZ Vol.2】 熱海のビジネス利用、受け入れプレーヤーの最前線(前編)

熱海だからできる「成果創出型オフサイト」とは

ワーケーションや企業オフサイトという言葉が広がって久しくなりました。しかし近年、企業が求めているのは単に「会議ができる場所」ではなくなっています。

組織の課題を解決したい。新しい発想を生み出したい。社員同士の対話を深めたい。地域や社会との接点を通じて視野を広げたい。そうしたニーズに応えるためには、会議室や宿泊施設だけでは十分ではありません。企業の目的を理解し、その実現に向けた体験や学びを設計する「受け入れプレーヤー」の存在が欠かせません。

熱海では近年、企業研修やチームビルディング、地域課題解決型プログラム、農業体験、ウェルネスプログラムなど、多様な受け入れコンテンツが生まれています。

第2回となる今回は、熱海で企業の学びや変化を支えるプレーヤーたちに焦点を当てます。

前回の記事

【熱海 for BIZ vol.1】観光地・熱海におけるビジネス利用の現在地

地域そのものを研修の舞台に 「Gensen & Co」が生み出す越境学習

「Gensen & Co」は、熱海のまちづくり会社から生まれた企業研修事業会社で、「人生や社会の転機となる原体験を、地域から。」をミッションに掲げています。

特徴は、一般的な研修会社とは異なり、熱海という地域そのものを学びのフィールドにしている点です。

観光地として栄えた歴史と衰退、空き家問題、高齢化、地域再生への挑戦など、熱海には日本の未来を先取りするような課題が集積しています。同社は、それらを企業人材育成の教材として活用しています。

代表的な研修プログラムでは、参加者が実際に街へ出て地域住民や事業者へインタビューを行い、社会課題の本質を探ります。講義を受けるだけではなく、自ら問いを立て、仮説をつくり、検証するプロセスを体験することで、課題発見力や事業創造力を養います。

現在までに100社以上、延べ1200人以上が参加しており、大手企業から地域企業まで幅広い導入実績を持っています。

MOA美術館と連携した研修プログラム

最近では、MOA美術館と連携した「Art Insight Program」もスタートしました。美術鑑賞や花を生ける体験を通じて感性や創造性を磨く内容で、AI時代に求められる人材育成をテーマにしています。

企業研修の世界でも、「知識を学ぶ」から「原体験を得る」への変化が進んでいます。その最前線の一つが熱海にあります。同社社長の佐々木梨華さんに話を伺いました。

Gensen & Coの佐々木さん

-なぜ熱海で企業研修を行っているのでしょうか。

佐々木:普段、企業の皆さんは東京の会議室やオフィスでパソコンに向かって仕事をしています。その環境だけでは、新しい発見やアイデアは生まれにくいと考えています。だからこそ、実際に地域へ足を運び、街を観察し、人に話を聞き、自ら体験することでしか得られない学びを提供したいと思っています。

熱海では街全体をフィ-ルドとして活用し、地域住民や事業者、観光客へのヒアリングなどを通して、課題や新たな可能性を発見してもらう研修を行っています。

-企業研修の舞台として、熱海ならではの魅力はどこにあるのでしょうか。

佐々木:熱海は観光地としての魅力はもちろんですが、多様な人と出会えることが大きな強みです。昔から住んでいる方だけでなく、移住者や起業家などさまざまなバックグラウンドを持つ人が暮らしています。街を歩けば話を聞ける人がいて、夜には飲食店などで偶然の出会いが生まれることもあります。

そうした人との交流が、新しい発見や発想につながっています。他地域で研修を実施した企業から「やっぱり熱海が良かった」と戻ってきていただくケ-スもあり、人との距離の近さや街全体の多様性が熱海ならではの価値だと感じています。

熱海の街でのフィールドワーク

-これまで印象に残っている研修や成果を教えてください。

佐々木:現在は、2カ月から半年にわたる中長期プログラムをはじめ、2~3日間の短期研修、1日視察プログラム、「クエスト型チ-ムビルディング」など、さまざまな研修を実施しています。

参加者からは、「これまでは海外ビジネスばかりに目を向けていたが、衣食住といった身近な分野にもビジネスチャンスがあることに気付いた」という声もありました。「熱海は成功している観光地という先入観を持って来たが、一歩街に入るとさまざまな課題があり、それが新たな可能性にも見えた」という感想も印象に残っています。

研修をきっかけに熱海との関わりを深める方も増えています。別荘を購入したり、「こがし祭り」に参加したり、副業として熱海の事業に関わり始めたりと、一度の研修が継続的な関係人口の創出につながっていることは、私たちにとってもうれしい成果です。

-今後目指していきたいことを教えてください。

佐々木:熱海でのビジネス利用は着実に増えてきていますが、今後は件数だけでなく、利用者の満足度をさらに高めていくことが重要だと考えています。

熱海には、自然や温泉、歴史、文化など多くの地域資源があります。こうしたコンテンツを体系的なプログラムとして磨き上げ、企業ごとの目的に合わせて組み合わせられるようにしていきたいです。

社員旅行や企業研修でも、単に場所を提供するだけではなく、地域とのコミュニケ-ションまで含めてコ-ディネ-トする「ソフト面」の強化が必要だと考えています。「熱海だからこそできる研修」をさらに増やし、企業の成果創出につながるプログラムを提供していきたいと思っています。

企業研修の様子

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廃校を地域と企業を結ぶ拠点へ 「AJIRO MUSUBI」が描くオフサイトの形

熱海市南部の網代地区で注目を集めているのが交流拠点「AJIRO MUSUBI」です。

2021年に閉校した旧網代小学校を活用し、地域交流拠点として再生された施設です。運営する一般社団法人あじろ家守舎は、帰郷者である代表理事の山崎明洋さんをはじめ、移住者、二拠点居住者など多様なメンバ-によって設立されました。

施設内にはカフェやコワ-キングスペ-ス、交流スペ-スなどが整備されており、地域住民と来訪者が自然に交わる環境がつくられています。

AJIRO MUSUBIのコワーキングスペース

企業オフサイトの観点から見ると、AJIRO MUSUBIの魅力は「地域との距離の近さ」にあります。一般的な研修施設では完結しない、地域住民との交流や漁業、空き家活用、地域活動などのリアルな現場に触れることができます。

網代という土地には、「待つ文化」が根付いているといいます。風待ち港として栄えた歴史や定置網漁、干物づくりなど、自然と共生しながら最適なタイミングを待つ価値観が今も残っています。そうした地域文化との出合いも、都市部の企業にとっては大きな学びになります。

会議や研修だけではなく、地域との接点を通じて新しい視点を得る。AJIRO MUSUBIは、そんなオフサイトの可能性を示しています。

今回、山崎さんにAJIRO MUSUBIの取り組みや展望を伺いました。

代表理事の山崎さん

-企業ではどのような利用が増えていますか。

山崎:毎年3月には、都内企業の新入社員向け入社前研修を受け入れています。参加者は20~40人ほどで、網代の宿に宿泊しながら1泊2日の日程で研修を行っています。

1日目は「AJIRO MUSUBI」で会議や研修を実施し、2日目は町歩きやロゲイニングなどのフィ-ルドワ-クを取り入れています。最後は地元の干物を使ったバ-ベキュ-を楽しみながら交流を深めるプログラムとなっており、チ-ムビルディングを目的に利用される企業が多いですね。

会議室利用も年々増えています。旧小学校を活用した施設なので広いスペ-スがあり、駐車場も備えているため、企業から直接、問い合わせを頂くケ-スも増えています。

-AJIRO MUSUBIならではのプログラムには、どのような特徴がありますか。

山崎:私たちは、海や山など網代の自然を生かした体験を提供できる地域プレ-ヤ-の育成にも取り組んでいます。

現在は6人のプレ-ヤ-と連携し、古道を歩くツア-やたき火プログラム、ツリ-クライミング、竹細工、ヨットを使って海を学ぶ体験など、多彩なプログラムを用意しています。

企業ごとの目的に合わせてこれらを組み合わせることで、単なる会議や研修ではなく、地域ならではの学びや体験を提供できるのがAJIRO MUSUBIの強みです。

AJIRO MUSUBIでのイベントの様子

-企業からはどのような反応がありますか。

山崎:「東京とは違う自然環境の中で気持ちが開放され、チ-ムワ-クが深まった」という感想を頂くことが多いです。

網代は漁師町ならではの古い街並みや暮らしが残る一方で、人口減少などさまざまな地域課題も抱えています。私たちは、そうした「課題先進地」であることをネガティブには捉えていません。

むしろ、まだ多くの余白が残されている地域だからこそ、「自分たちなら何ができるだろう」と企業の皆さんが考え、新しいアイデアや可能性を生み出すきっかけになっています。

-今後の展開について教えてください。

山崎:現在は、企業が地域をフィ-ルドにアイデアを実証できる「寺子屋」のようなスク-ルづくりを構想しています。一度イベントとして訪れて終わるのではなく、小さな関わりでも継続的に地域とつながっていただける仕組みをつくりたいと考えています。

私たちが目指しているのは、単に交流人口を増やすことではありません。企業と地域が長期的な関係を築き、新しい産業や事業が生まれる場所として網代を育てていきたいと思っています。

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