特集

【熱海 for BIZ vol.1】 観光地・熱海におけるビジネス利用の現在地

行政×民間連携で進む「ビジネス利用の街」への進化

海と山、そして温泉に囲まれた観光地として知られる熱海で今、ワーケーションや企業オフサイトなど、ビジネスでの利用が広がっています。以前は観光や福利厚生の延長線として捉えられることも多かったワーケーションですが、近年は経営合宿や組織開発、新規事業創出など、企業活動そのものを支える場として活用されるケースが増えています。

背景には、首都圏から新幹線で約40~50分というアクセスの良さに加え、行政と民間が連携して受け入れ環境を整備してきた積み重ねがあります。熱海市では、ワーケーション施設や研修プログラムを紹介するポータルサイト「熱海ワーケーションホームページ」を2022年に開設。市内のコワーキングスペースや宿泊施設、体験型プログラムなどを総合的に発信しています。

熱海市は2020年度、「熱海市ワーケーション施設等整備促進事業費補助金」を創設し、市内でのコワーキングスペースやオフサイトミーティング施設の整備を支援しました。これまでに複数の事業者が補助金を活用し、宿泊施設内のミーティングスペースやレンタルスペースなどが新たに誕生しています。さらに2023年度には「熱海市ワーケーション等プロモーション推進事業費補助金」を始め、ワーケーションプラン造成やPR活動の支援にも乗り出しました。

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「古屋旅館」内にあるワークスペース

また、熱海市とJTBは2023年、交流人口と関係人口の拡大を目的とした包括連携協定を締結。ビジネス利用やインバウンド、教育旅行の促進などに共同で取り組んでいます。都内企業やベンチャー企業に向けた経営会議や社員研修などでの熱海利用も視野に入れており、「ビジネスシーンで活用できる観光地として熱海を定着させたい」という方向性を掲げています。

市内のワークスペースなどを掲載

なぜ今、熱海なのかーー都市近接型オフサイトという強み

全国各地でオフサイトが進む中、熱海が特徴的なのは「都市近接型」である点です。地方への移動に半日以上を要する地域もある中、熱海は東京駅から新幹線で約40分。移動負荷が少なく、1泊2日や短期滞在でも導入しやすい環境があります。

さらに、海や山、温泉といった非日常環境が、仕事モードの切り替えを促す要素として評価されています。熱海市のワーケーションサイトでは、「首都圏から近いこと」「豊富な温泉」「素晴らしい景観」を地域の強みとして打ち出しています。

海と山に囲まれた熱海市

熱海は古くから別荘地や保養地として発展してきた歴史があります。多くの文豪や芸術家が滞在し、創作活動を行ってきた背景もあり、「日常から離れて集中する場所」という文化が根付いている地域とも言えます。現在のワーケーション需要も、そうした熱海の土壌と重なる部分があります。

企業側のニーズも変化しています。コロナ禍を経てリモートワークが一般化したことで、単に「働ける場所」を求める段階から、「対話が深まる場所」「組織が変わる場所」を求める流れへと移行しています。

市内で研修プログラムを提供する関係者からは、「以前は福利厚生的な利用も多かったが、最近は経営戦略会議や新規事業合宿として利用する企業が増えている」「成果を求める企業利用が増えている」といった声も聞かれます。

・ビジネス利用の目的(順位)

JTB経由での2024~2025年度利用動向より

「熱海パールスターホテル」内の会議スペース

受け入れ環境の進化―「泊まる場所」から「成果を生む場所」へ

熱海の特徴は、宿泊施設だけでなく、多様なプレーヤーがビジネス利用を支えている点にあります。

市内では近年、企業研修やチームビルディング、地域交流、農業体験などを組み合わせた「体験型研修・オフサイト」も増加しています。熱海で研修プログラムを手がける「Gensen & Co」は、社会課題をテーマにした実践型企業研修を展開。地域課題を題材にした越境学習型の研修を行っています。MOA美術館と連動して、美術鑑賞や花をいける体験を通した企業研修プログラムも手がけています。

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MOA美術館での企業研修プログラム

環境問題に取り組む「未来創造部」では、ブルーカーボンや炭化ユニットなど、熱海の環境課題に取り組むプロジェクトを企業研修に活用。地域課題への参加を通じて、企業側の学びや組織変革につなげています。

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熱海ワーケーション公式サイトでは、一棟貸し施設やファームケーション、温泉・ガストロノミー体験なども紹介しています。最近は、周囲を気にせず議論できる一棟貸し宿泊施設の需要も高まっており、経営層の合宿やチームビルディングの利用も増えているといいます。

農園を活用した「ファームケーション」や、海辺でのアクティビティーを組み合わせたチーム研修など、熱海ならではの自然環境を生かしたプログラムも増えています。単なる「場所貸し」ではなく、企業ごとの課題や目的に合わせた滞在設計へ進化しているのが現在の熱海における企業利用の特徴です。

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夜の過ごし方も、熱海ならではの価値として注目されています。コンパクトな街で回遊性が高く、徒歩圏内に飲食店や温泉が集積しているため、会議後の食事や交流の時間が自然に生まれやすい環境があります。企業利用では、こうした「非公式な時間」がコミュニケーション活性化につながるケースも多いといいます。

次のフェーズに向けた熱海の挑戦

熱海市では現在、観光だけに依存しない地域づくりを進めています。2026年に策定した「熱海市観光基本計画2026-2030」では、「温泉観光地 熱海」から「温泉リゾート 熱海」への進化を掲げ、持続可能な地域づくりを目指しています。

ワーケーションや企業オフサイトも、その流れの中に位置付けられています。単なる流行ではなく、企業活動や人材育成、関係人口創出を支える仕組みとして、地域全体で受け入れ体制づくりが進んでいます。

今後は、より専門性の高い研修プログラム開発や、企業ごとの課題に応じたカスタマイズ対応、長期滞在型利用の強化なども期待されています。インバウンドや教育旅行との連携など、新たな展開の可能性も広がっています。

熱海はこれまで、「観光地」として時代に合わせながら進化を続けてきました。そして今、「働く場所」「組織が変わる場所」として、新たなフェーズへ進もうとしています。

熱海観光局 インタビュー

熱海観光局(DMO)専務理事の上田和佳さんにビジネス利用促進の現在地と、描く「熱海像」を伺いました。

―熱海市がワーケーションなどビジネス利用の推進を始めた背景を教えてください。

上田:平日利用者数と休日利用者数の格差を平準化する狙いがあります。平準化を図る施策の一つとして、企業利用を強化しています。熱海の強みである首都圏からの近さ、温泉、自然環境を生かして、企業研修、ワーケーション、オフサイトミーティング、チームビルディングなどでの利用を誘致していきたいと考えています。

―最近の法人利用の傾向や企業ニーズをどう捉えていますか。

上田:コロナ後、社員旅行が復活していますが、内容が以前と大きく変化しています。宴会を目的とした旅行ではなく、コミュニケーション促進、マネジメントやチームビルディングを重視したビジネス寄りの目的にシフトしてきています。例えば、離職率を下げるための若手向けコミュニケーション研修、エグゼクティブ向けのオフサイトミーティングの需要も高まっています。上場企業や大手企業がホテルを貸し切って経営会議を行い、そのままカクテルパーティー、翌日にゴルフをするという使い方もあるようです。

―そのような利用方法がある熱海ならではの強みは何でしょうか。

上田:先に挙げた立地的な優位性は当然ですが、ハード面でいえばバラエティーに富んだ施設があることだと思います。少人数での貸し切りや、手頃な価格で利用できるカジュアルな宿泊施設から、エグゼクティブのニーズに合うラグジュアリーな施設まで、幅広いハードを持っていることが挙げられます。

ソフト面においては、今後もさらに強化する必要はありますが、市内事業者による研修プログラムやアクティビティーなどの開発が進んでいることも強みと言えます。

―今後、ビジネス利用を促進するために強化したいポイントはありますか。

上田:一人利用可能なシングルの客室が少ないことは一つの課題です。行政とも連携することで、まちづくり条例の改正によるシングル部屋増設の可能性には期待したいと思います。

パートナー事業者との連携を図りながら、データに基づくPDCAを回していくことで、プロモーションの内容や時期の最適化を図り、高い精度で実行に移せるようになることが重要だと考えます。問い合わせや興味を示したものの熱海に来訪しなかった顧客の要因分析、ソフト面のニーズマッチングの調査も必要です。首都圏へのプロモーションも強化していく方針です。

―これからのビジネス利用における「熱海像」を教えてください。

上田:まずはビジネスでの平日利用が数値として実績を出すことですが、現状ではまだ一部の施設に利用が偏っています。100人を超えるような大規模な企業旅行はハード面の課題が出てくる一方、小規模なスタートアップやIT企業などは受け入れられるキャパシティーもあり、熱海との親和性もあると考えています。これまでしっかりアプローチできてこなかった層であるので、例えば都内でのイベントを通して中小ベンチャーとの接点を増やしていければと思います。実際に都内と熱海で2拠点生活をしているスタートアップの成功者もいるので、ビジネスの視点からお話しいただくと伝わりやすいでしょう。

平日のビジネス利用が増えれば、街の夜のにぎわいにもつながることが期待できます。例えば、朝にはサンライズを眺めながらヨガをするといったストレスを解消するようなプラグラムなどが開発されれば、最終的に朝から夜までリゾートを感じられるような街になると思います。

リゾート地の象徴とされるハワイは、実は世界有数のコンベンション地でもあります。コンベンションホールがあることで、世界会議や学会が開かれています。いわゆるMICE(マイス:ビジネスイベントの総称)が頻繁に行われています。熱海では何万人は無理でも、何千人規模が集まれるようなコンベンションホールができると世界が変わってくるかもしれません。

私が生きている間には難しいかもしれませんが、そのような「温泉リゾート 熱海」を目指していきたいと思います。

JTB静岡支店インタビュー

熱海市と共にビジネス利用促進に取り組むJTB静岡支店の村瀬達也さんにこれまでの取り組みと今後について伺いました。

―昨年度の取り組みと成果を教えてください。

村瀬:本事業については、ウェブサイトのリニューアルや広告・SNS運用、都内でのイベント実施により、「熱海でのビジネス利用」という新たな需要の認知は着実に広がったと考えています。

2025年度は、問い合わせのうち半数以上が実施となり、熱海への誘客につながりました。利用は社員旅行や企業研修が中心で、ビジネス利用が一定程度定着してきています。

―課題と今後の取り組みについて教えてください。

村瀬:繁忙期の空室不足などにより、案件化に至らないケースも見られ、特に大型案件や直前の問い合わせへの対応が課題となっています。

また、企業側のニーズも多様化しており、シングルユースや研修プログラムといった新たな要望への対応も求められています。

こうした中で2026年度は、ビジネス利用に加え、リトリートやウェルネスといった側面にも力を入れ、企業の生産性向上や人材育成につながる新たな滞在価値の提案を強化していく予定です。

全体としては、認知から実際の利用につながる段階に入りつつある一方で、今後は受け入れ体制の強化や付加価値の向上によって、より確実に誘客につなげていくことが重要と考えています。

 

関連サイト

意外と熱海 for BIZ

熱海観光局(DMO)

 

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